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疑い

「裏切り者……?」


 喫茶店中に、誰かの「裏切り者」と言うワードが響きわたる。それは決して良いムードの中で発せられた言葉ではなく、チェス隊メンバー全員がピリピリとしていた。


「それはわかったけどさぁ」


 ピリピリとしたムードに包まれたこの場を突き破るように、旋木先輩が声を発する。いつもの旋木先輩っぽくない小さな声だが、みんなが押し黙っているからか、妙に大きく聞こえた。


「そんな大事な事なら、こんなどこにでもある喫茶店の中で言わなくてもよくないですか? その裏切り者に聞かれているかもしれませんよ?」


 旋木先輩の質問に、私は確かにその通りだと思った。


 もし本当に裏切り者がいるのならば、神奈川内部を揺るがす大事だ。裏切り者を見つけるなら、こちら側が裏切り者に感づいていることすらも隠すのが普通。防音もなく、監視カメラも最低限しかないこの場で会議をするのは得策ではない。


(本部でやるのが普通ですが……)


 が、黒のクイーンである斉藤さんがこんな簡単なことを見逃すはずがない。何か理由があるはずだ。


 そして、斉藤さんは私の期待通り、しっかりと問いに対して返答した。


「いえ。今この場に裏切り者がいる可能性は極めて少ないわ」


「どうして?」


 斉藤さんは長官の情報が映し出されたノートパソコンを指差しながら話す。


「この情報がフェイクでなければ、裏切り者が狙っていたのは、あくまで長官の命よ。それが失われた今、裏切り者からしてみれば、ここにいる価値は無いはず」


 なるほど。確かに内部から奪われた情報は長官に関してのものばかりである。長官が亡くなった今、わざわざ兵士たちが集まるであろう現場にとどまる必要性はない。


「……でも、だからこそ聞かれぬよう、本部の会議室ででも話せば……」


「裏切り者は私たちの目を欺いて潜伏しているのよ。そしてこれらは本部から抜き取られた情報。つまり、むしろ安全に見える本部こそが――――」



「危険……ってことだよね!」



「……ええ、その通りよ。白のクイーン」



 斉藤さんの言葉に割り込んで、白のクイーン、硬城蒼華が言葉を放った。


「……なーるほど。私の思慮及ばず、無礼にも質問をしてしまい、申し訳ありませんでしたー」


「いいのよ。先に説明しなかった私にも非があるわ。不安な気持ちにさせてごめんなさい」


 旋木先輩と斉藤さんは、お互いに謝った後、皆に向けて声を出した。


「そこで……神奈川派閥きっての優秀な兵士たちであるみんなにお願いがあるわ」


 黒のクイーン、斉藤美代の声に、なぜか体が強く強張り、武者震いが体が微量に震え出す。周りを確認すると、他のメンバーも私と同じ現象に陥っているようだった。


「裏切り者をこのままいいようにさせてはおけない……だから! 愚かにも神奈川派閥内部に侵入してきた不届き者に罰を与えるため、この中からメンバーを選出し、そのメンバーに裏切り者を見つけ出す特別任務を与えます! メンバーは凛を筆頭に………………そして、最後に浅間ひより!」


(ふむ、なるほど特別任務……っては?)


 え、なんだろう。なんか今、私の名前が聞こえたような……


「以上のメンバーはこれから一まとめになって活動してもらいます! いいですね!」


 よくない。非常に良くない。許されるなら嫌だと言いたい。だが……





「「「「「了解!!」」」」」





「り、りょーかーい……」


 この空気の中では、自分だけ嫌などとは口が裂けても言えなかった。


 




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