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会合

 俺は今、袖女とともに空を飛び、長官が死んだと言う喫茶店へと向かっていた。


「……あの、本当に来るんですか?」


「嫌なのか?」


「嫌とか良いとかそんなんじゃなくてですね……大丈夫なんですか? 他のチェス隊メンバーも来ていると思いますけど……」


(なんだ、そう言うことか)


「そのことなら問題ない。お前が電話から聞いた内容が正しければ、その長官ってやつが殺された場所はただの喫茶店だ。つまりは民間人も多くいる場所。たとえ俺の正体がわかっても、すぐには行動できないはずだ。それに……」


「それに?」


「今の俺なら、チェス隊どもが一斉に襲いかかってきても、どうにかできる自身があるから」


 俺のその言葉に、袖女は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、クスリと笑った。


「おいなんで笑う」


「ふふっ……ちょっと前まであんなに凹んでたのに……くふっ」


「言ってろ……お、あれじゃないか?」


 そんなこんな言ってるうちに、喫茶店らしき場所が見えてきた。周りに喫茶店らしき建物がないところ見ると、あそこで間違いなさそうだ。


(……って、ここは……)


「そうですね……送られてきた位置情報と照らし合わせてみても、ここで間違いなさそう……って」


 袖女もここがどこか気づいたらしく、一瞬言葉を詰まらせていた。


「喫茶店……って時点でなーんか変な予感はしてたんだけど……まさか、俺の行きつけだった喫茶店だとはな」


 何度目をこすっても、そこにあったのは、間違いなく少し前まで俺が通っていた喫茶店だった。


「まさかですね……」


「……てか、お前も一度連れて行ったことがあるんだから、位置情報が送られてきた時点で気づけよ」


「しょうがないじゃないですか! 私が来たのは一度だけですし」


「わかったわかった……ほら、降りるぞー」


 お互いに小言を言い合いながら、喫茶店に向かって着地する。


 喫茶店の周りには、群がってくる民間人を抑えるため、一般兵士たちが喫茶店の周りを囲むように佇んでいた。


 そして、俺たちが着地するのとほぼ同タイミングで、喫茶店から出た1人の兵士に気づかれ、挨拶された。


「お疲れ様です黒のポーン。来ていただいてありがとうございます」


 背筋がピシッとした良い敬礼だ。これはされた側も嬉しい。


「ことがことですからね……チェス隊メンバーの1人である私が来るは当然のことです。感謝は不要ですよ」


(誰こいつ)


 普段より明らかに格好つけた袖女に、俺は思わず半目になって袖女を見る。意外と取り繕うタイプだったのか。


「あの……なぜ田中伸太様がそちらに?」


(おっと)


 兵士の言葉に反応し、俺も負けじとピシッと背筋を伸ばし、問いに対する返答をする。


「はいっ。黒のポーンとの会話を偶然聞いてしまいまして……このまま見て見ぬふりをするよりも、聞いてしまった以上、何かお手伝いした方が良いと考え、参上したであります」


「ぶふっ」


 俺の慣れない敬語に、横から何かを吹き出す声が聞こえた。袖女は後で根絶やしにしてしまおう。


「しかし……黒のクイーンには、チェス隊メンバー以外入れるなと……」


「恐れながら申し上げます。私は黒のキングと引き分ける強さがあると自負しております。中には入れずとも、警備ぐらいはできるかと」


 兵士はアゴに手を当て、考え込む仕草を取る。


「なるほど……しかし、でも、うーむ……」


 と、その時、喫茶店のドアがガチャリと、開いた音がした。俺は反射的に音が鳴った方に反応し、そちら側に振り向くと、そこには、神奈川派閥の人間なら誰しもが知っているであろうとある人物がそこにいた。


「あなたは……」


「おっ……また会ったな」


 黒のクイーン、斉藤美代が現れた。


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