プロモーション戦終了後 その6
最近頑張ってる気がしなくもない。
目が覚めた俺は、戯れてきたブラックの頭を撫でつつ、お粥を持ってきた袖女と対面した。
「……悪かったな」
「はい?」
「あんな大見得切っておいて、勝てなかった」
対戦前、あれほど袖女の前で調子こいた発言をしておきながら引き分け。黒い正方形がなければ100パーセント負けていたことから考えると、ほぼ負けと言っていい結果だろう。
さらに言うなら、神奈川派閥に来てからの勝ちの連続で慢心があったのか、トレーニングはしていたが、新技の開発、相手の対策が全くできていなかった。
よく考えてみれば、今の今まで、俺は反射の能力と相手のスキルチェック。戦い方の癖。立ち周り等、相手用に自分を改造し、敵を撃ち破ってきた。神奈川派閥での袖女リベンジ戦がいい例だろう。
(よく思い返してみれば、試合前どころか、試合中にも相手のスキルの分析を怠っていた気がする。今までの自分を全くと言っていいほど取り戻せなかった……!)
自分の実力をフルに発揮できず、頭も回せない。
(そんなの……勝てなくて当然だ)
周りは見えていても、肝心の自分を見ていなかった。言葉で言い表せないレベルの慢心。あまりにも愚かだった。
「……いや、何言ってんですか」
「いや、だから勝てなくて……」
もう一度同じことを言う俺に嫌気が刺したのか、袖女はため息を吐く。
「一度うまくいかなかったぐらいで何申し訳なさそうにしてるんですか? もう……」
「いや、けど……」
「そ、れ、に!! 私の方が死ぬほど失敗してます。いっぱい負けてます。主にあなたのせいでね! ……だから、ね? 大丈夫です」
「……そうか」
そういえば、俺も昔は失敗続きだった。最近成功してばかりで、あの時に学んだ耐える精神を忘れていたかもしれない。
(そうだ。今の俺には目標があるじゃないか。途中でしょげてどうするんだ)
どちらにせよ、もう止まれない所まで俺は来ている。足踏みはもうしていられない。進み続けるしかないのだ。
「……いつもの顔に戻りましたね。立ち直るのが早くて私は嬉しいです」
袖女が皮肉気味に話す。ただ、言葉の内容とは裏腹に、表情は少し柔らかくなっていた。
「ああ……俺は、進むよ」
袖女は茶碗の中に入っているお粥をレンゲでくるくると混ぜ、すくったお粥を俺の口元まで近づけてきた。
「はい。あーん」
「ん……」
袖女のあーんに答え、近づいてくるお粥入りのレンゲを、口の中に受け入れる。
いつも通りうまい。お粥自体は何の変哲もない卵粥なのだが、卵の半熟具合や温かさがちょうど良く、それでいて、運動した後の俺のためか、少し濃いめに作られている。食べる側の人間のことを考えたすばらしいお粥だった。
「むぐ……そういえば、俺は何でここにいるんだ?」
口の中でお粥を噛みしめながら放った俺の問いに、袖女はレンゲでお粥をすくいながら答えた。
「あー……覚えてませんか?」
「断片的になら覚えているが……その断片的な記憶も黒のキングと戦っていた時のものでな。なぜ俺がここにいるのかまではわかんない」
「なるほど……あれはしばらく使わない方がいいかもですね」
「だな……じゃ、教えてくれるか?」
「ええ、もちろん」
袖女はお粥を俺の口に運びながら、子供に絵本を読み聞かせする時のような、優しい声色で、ここまでの経緯を話し始めた。
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