プロモーション戦終了後 その4
黒い正方形に連れられ、田中伸太は、そして出口にいたはずの浅間ひよりはどこに行ったのか。
「まさか……自分から抜け出してくるなんて……」
浅間ひよりは今、プロモーション戦が行われたステージのすぐ真横にある高層ビルの一室にいた。
なぜそんなところにいるのか。あの時、黒い正方形によって出口を破壊され、彼を連れてきたあの時、なぜか私も黒い正方形に持ち上げられ、この場所まで運びこまれたのだ。
まるで、黒い正方形に意思があるかのように。
(……ますます、彼の知っている範囲の出来事とは思い難い……)
もともと黒い正方形について疑いの目を向けていた私にとっては、彼の解析を止めてくれてありがたいと思いつつも、黒い正方形は一体何なのか、さらに疑いを強める要因になった。
そして、そんな危なそうなものを腹の中に抱えている彼はと言うと……
「……ぐう〜……」
その元凶は今、部屋にあるキングサイズのベッドでぐっすりと眠っていた。
「……はぁ」
こっちはこんなに心配しているのに、その心配の元凶であるこの男は黒い正方形に連れられて、わざわざベッドにまで運び込まれ、幸せそうに寝ている。
彼じゃなければ思わずビンタしそうになっているところだ。
「ま、黒い正方形関係なく、戦いの後で疲れているでしょうし……休ませてあげましょうか」
しかし、この高層ビルに入るにあたって、部屋の窓を突き破ってしまっているため、隠れるのには適していない。
(階層を変える必要があるか……)
そう考えた瞬間、まるでこちらの心の内を読んだかのように、彼の体内から黒い正方形が出現。下から彼の体を持ち上げた。
「……手伝ってくれるの?」
私の問いに黒い正方形は答えない。当然っちゃ当然のことだが、ここまで不思議なことを起こしておいて喋らないのかと、少しおかしくなった。
「じゃ、他の空き部屋にいきましょうか……ほらブラックもそんなところで縮こまってないで」
「ウウ……」
いまだにビビリ散らかしているブラックを無理矢理歩かせ、黒い正方形とともに別の階層へのエレベーターに乗り込んだ。
――――
東京派閥本部。
その最深部では、異能大臣主導のもと、とある物体についての解析が進められていた。
「どうですか? 器の調子は」
「重度の身体の負担により、気絶自体はしましたが……中身の回復効果のおかげで肉体はまったくの無傷です。適合率も80パーセントを維持していました。想定以上の適合率と言えますね」
「ふむ……まずまずですね」
「ま、まずまず、ですか?」
異能大臣の言葉に驚いたのか、近くにいた科学者らしき人物が言葉を聞き直す。
「まずまずですよ。彼には桃鈴才華……元の器にはない特異的な素質がある。彼にはもっともっと……中身を扱えるようになってもらわないと」
異能大臣の口角が、ニタリと歪んだ。