プロモーション戦終了後 その1
3人称視点です。
『プロモーション戦、全工程が終了しました。観客の皆様はお忘れもののないよう、いま一度席のチェックをよろしくお願いします』
司会者のその発言を皮切りに、ぞろぞろと観客たちは席を立ち、ステージを後にしていく。
ステージを後にする観客たちの中には、プロモーション戦についての感想を述べる者たちもちらほら確認できた。
「今回のはすごかったねー!」
「ええ、まさか黒のキングを相手に引き分けるなんて……全く、とんでもないダークホースが現れたもんだわ」
引き分け。そう、プロモーション戦の最終戦。黒のキングVS田中伸太の戦いは、お互いに気絶しての引き分けで幕を引いたのだ。
最初こそ黒のキングの圧倒的有利だと思われたが、伸太のようすが変わり、紫色をした半透明の鎧を装着してから、力の差は逆転。終始黒のキングが押される展開となったが、そこは流石黒のキング。最後の最後に意地を見せ、黒のキングは尻をついたまま気絶。田中伸太は立ったまま気絶する相打ちの展開となり、戦いは幕を閉じた。
SNSでもプロモーション戦最終試合の話で持ちきりで、双方1歩も譲らない戦い。
……に見えていたのだろう。
実際のところは違う。試合中、田中伸太の体内から実体となって飛び出てきた黒い正方形。あれはしかるべきところで管理されるべき代物だ。
そしてあれは昔とは違い、大幅なパワーアップを遂げている。それこそ、老いたとは言え、神奈川派閥のトップ、黒のキングを圧倒できるほどに。
それがわかっている黒のクイーン、白のキングはすぐに行動を開始していた。
白のキングは黒のキングを回収し、医療班に任せた。
「彼の肉体の回復、及び解析を急いで! 最優先事項よ!」
黒のクイーン、斉藤美代はプロモーション戦が終わった後、すぐさま田中伸太を担架に運び、医務室へと運んでいた。
医務室には医療班と別に医務室に常駐する医師たちに加え、スキルや機械全般を研究する技術者たちの姿も見えた。
医務室の中でてきぱきと準備が進んでいく中、技術者たちの1人が黒のクイーンに対して質問を投げかけた。
「しかし、黒のクイーン。良いのですか? 本人に了承もなく、体を調べるのは……」
今回の解析には、田中伸太の意思はない。完全に黒のクインの独断によるものだった。
「ええ、あなたたちに迷惑がかかることは無いから、安心して。全責任は私が取ります」
今回の解析が後々、田中伸太にバレ、訴えられたりでもしたら確かに事だが、黒のクイーンにとってはそれよりも、田中伸太の体の中に宿る黒い正方形を調べることの方が、よっぽど大事なことだった。
(あれを調べ、弱点を探せば今後暴走した時の対処がいくらか楽になるし……それに、彼はもともと、黒ジャケットである可能性がある人物。これで彼のことをいくばくか知ることができれば……)
医務室で準備が着々と進められていく中、斉藤美代のお付きとしてともに医務室にいた天地凛はと言うと……
(斉藤様……こんな大掛かりなことをしてまで、田中伸太のことを……!!)
いまだに勘違いしていた。




