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思案

 最初は観客視点。次に黒のクイーン視点です。

 向かってくる伸太に対して、足を踏み込んで真正面から徹底抗戦の構えをとった黒のキング。その行動に観客たちはそれぞれ別の考えを示していた。



「やっぱ黒のキングはそうでないと!!」



「カッコいいー!!」



 と、言ったように肯定的な意見もあれば……



「ど、どうなるの……?」



「こうなったら……政権交代だぁ! やっちまえー!」



 一転して、伸太を応援しようとする声もある。



 ただ、それらを除いてひときわ大きい声を放っていたのは……



「馬鹿な!? 無謀だ!!」



 黒のキングの行動を無謀だと凶弾する声だった。



 その声を発したのは筋骨隆々の男。神奈川派閥でも有数の男なのに加え、筋肉が発達しているのも相まって、プロモーション戦が始まる前からひときわ目立っていた人物だ。


「どういうことよ?」


「見たらわかるだろ!! 一撃であの威力だったんだぞ? 簡易的とは言え、特注の素材でできたステージをぶっ壊すほどのだ! その証明に白のクイーンと黒のキングが守ってくれなかったら、観客席にまで被害が及んでいた! そんなパワーのある相手と真正面からやり合うなんて馬鹿でもやらないぞ!?」


 ステージの素材や作り方を知っているあたり、神奈川派閥の兵士であることがうかがえるが、そんなことはどうでもいい。大事なのは言葉の内容だ。



 その言葉に観客たちは戦慄した。



 観客たちにとって、黒のキングとは伝説的な存在である。伝説的な活躍をしたキングだが、それも昔の話。いまや兵士の中でも、戦っている姿を見たことがない人の方が多いほどで、その兵士の中でも、かなり歳を食ったおじいさんしか見たことがないほどだ。


 なので、観客のほとんどは伝説的な活躍をした存在と教えられているだけなので、黒のキングの強さを信者かと思うレベルで信じている者もいる。



 それこそ、今のボロボロの姿が観客を盛り上げるための演技だと思い込むほどに。



「このままじゃ……本当に負けるぞ!」









 ――――









 黒のクイーン、斉藤美代はイライラしていた。なぜ私がイライラしているのか。その原因は目の前の現状にあった。


「なんで観客は逃げないの!? 司会を通じてアナウンスしてるはずなのに!」


 さっきから何度も何度もアナウンスしているはずなのに、一向に観客たちが避難する気配がない。むしろテンションがヒートアップしているように感じる。


「歓声のせいで聞こえづらくなっているのと……目の前の戦いに夢中になっているのが原因かと……」


「わかっているわよ! そんなこと!」


 司会者の言葉に荒々しく返事をした後、私は思案を巡らせ始める。


(まさか司会のアナウンスが聞こえなくなるほどヒートアップするなんて……黒のキングが戦うことによる盛り上がりがここまでのものになるとは想像してなかった……)


 これではわざわざここに来た意味がない。骨折り損とはまさにこのことだ。


(……っ! 仕方がない。一旦特設席に戻って、チェス隊のみんなにこのことを知らせて、観客に直接避難誘導を促すしか……)


 ……と考えたその時。


「あっ!!」


 司会者から無意識的にこぼれた言葉。



 私はそれに反応し、反射的にステージを映すモニターを見ると、なんとそこには、勝ちの目は薄いと思われていた黒のキングの左拳が田中伸太の右胸に直撃し、そのまま田中伸太を殴り飛ばした黒のキングが映っていた。


「黒のキングが勝てば……」


 そうだ。簡単なことじゃないか。黒のキングに勝ってもらえさえすれば、今悩んでいること全てが解決する。



(一応、すぐに手を出せる位置にいたほうがいいわね)



「凛。戻るわよ」



「はい」



 黒のキングが勝利する。今まで当たり前だった2文字を信じるのに、さほど時間はかからなかった。


 

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