診察結果
「ちっ……もう1時間か……」
あれから僕は鎧について、1時間たっぷり使ってチェックしてみた。
分かったことは2つ。1つはこの鎧の材質だ。
僕の知っているあれは雰囲気や戦術、そして身体能力が爆発的に向上するだけで、見た目の変化は無い。よって、腕にまとっている鎧や爪は初見だ。
結果としては、現代のものではないものが使われていることがわかった。関節を利用した柔軟な動きを制限せぬよう、内側は柔らかく外側も内側に合わせて動くようになっており、それでいて外側はダイヤモンド以上の硬さを持っている。触れることも攻撃扱いになってしまうので、触れることはかなわないが、その前に攻撃した時、鎧には傷1つ付きはしなかったことを考えるに、ウルトロン以上の硬度と見た。
もう1つは、この鎧に隙をつけるような弱点がないことだ。
関節部分に隙間もない。鎧自体を剥がせそうもない。破壊は不可能ではないが、よほどの一撃を与えない限りは不可能だろう。
が、幸いなことにこの鎧は手のひらから肩にかけての腕の部分にしかない。拳同士の打ち合いなら間違いなく負けてしまうが、不意を突いた一撃。すなわち30秒間の間に頭を何度も殴りつけて気絶させる方法自体は有効だと言うことだ。
「それが知れただけでも十分……か」
(解除)
僕はそれだけを言い残し、体の場所を伸太から見て真逆に置き、スキルを解除した。止まっていた世界に色が戻り、動きが戻っていく。
「グルゥ……ア?」
伸太はさっきまで自分の尻尾で攻撃していた相手が急にいなくなったことに、少しばかり動揺しているようだ。
(仕掛けるなら今か……?)
そう思い、上半身を前に倒して近づこうとするが、気配か何かを感じ取ったのか、グリンと体だけを回し、こちらに振り向いてきた。思わず無意識に急ブレーキをかけ、その場に踏みとどまる。
「ぐ……」
(ほぼ不意打ちと言っていい攻撃にも対処されるのか……)
「グヒヒ……」
伸太はうめき声をあげつつ、尻尾を自由自在に伸ばし、こちらに向かって射出してきた。
(こいつ……僕に尻尾での攻撃が有効と察知しやがったな)
さっきの攻撃は確かにスキルの力によって回避できた。しかし、裏を返せばそれは、スキルの力でないと切り抜けないことの証明でもある。
いくら体の主導権を握られたと言えど、伸太からすれば、自分の目でも捉えられないほどの高速移動なんて、スキル以外にありえない。
つまり今の伸太にとっては、尻尾で遠距離から攻撃することこそ安全パイなのだ。
(まずいぞ……このままでは一方的にスキルを使わされるだけだ)
近づいてから攻撃する30秒間の間にスキルを使いたいのに、離れた場所で尻尾を回避するためにスキルを使わされてはどうしようもない。むやみに時間を使わされるだけだ。
「片腕でなんとか……」
僕はしっぽの側面に触れ、なんとか尻尾の着弾位置を逸らそうと試みるが、尻尾の弾性は思った以上のものらしく、結果として逸らすことには成功したものの、触れた瞬間にバチリと弾き返されてしまった。
が、一度逸らすだけでは意味がない。すぐに戻ってきて追撃を仕掛けられるからだ。
(想像以上に尻尾での攻撃が凶悪だ……これをどうにかしないと……)
伸太からすれば、尻尾の攻撃をするだけでどうとでもなってしまうのだから。
(こちらから距離を詰めなければ……)
だが――――その必要性はなかった。
「なっ……」
なんと、あちら側からわざわざ接近してきたのだ。