パワーイズジャスティス
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爪を振り下ろし、放った一撃は、天地を裂き、観客席にいる観客を巻き込んで、ステージに甚大な被害を巻き起こした。
……かのように思えた。
「グ……?」
煙が晴れると、そこには左手を前に出し、観客席を守るようにたたずむ黒のキング。そして観客席には、薔薇の花と茨がまとわりついた城壁が観客を守るために建てられていた。
「まったく……世話の焼ける弟子だ……」
――――
僕は、爪がインパクトする瞬間、衝撃の前に割って入り、スキルを使用して、左手でできる範囲で巻き上げる瓦礫を全て叩き落としたのだ。それを可能にできれば、自分に被害が出ることなく、周りの被害もできるだけ減らすことが可能だ。結果的には全ての瓦礫を叩き落とすことは不可能だったが。
それよりも、重要なのは僕の後ろにある城壁だ。
(あいつめ…… 王女の城を……しかも最大硬度の薔薇の城か……あいつがこれを使うとは……)
薔薇の城を使うということはすなわち、それほどの威力だったと言うことだ。
(一撃で……しかも代償なしときたか……)
スピードが落ちた代わりに、攻撃力が劇的に増している。それこそ、スピードを捨てても余りあるほどにだ。
(……外すか?)
一瞬、自分の脳内で、己の制限を解除する選択肢が頭をよぎる。が、それには人目が邪魔だ。よって制限は外せない。
ただその場合、右腕が使えなくなっている現状で戦うことになる。
なんだ。勝算がないのに1人でやらせてくれなんて言ったのかと思うかもしれないが、そうではない。確かに勝算はあるのだ。勝算自体は……
(体力や身体能力では勝てない。なら、それらがフルに発揮される前に倒す!)
つまりは気絶だ。気絶させれば体力や身体能力等関係は無い。スキルを使用すれば、攻撃できる30秒間の間に頭へラッシュを叩き込んで気絶させることなど造作もないだろう。
しかし、この作戦を実行するにあたって、障壁となるのはその秒数だ。
30秒。
(短い……あまりにも短すぎる!)
たったの30秒で伸太のすぐそばまで近づき、頭めがけて拳を何度も叩くのは、時間的に不可能に近い。なぜなら僕のスキルは1秒を体感何秒にも伸ばすだけで、身体能力自体は向上していないからだ。
全盛期の頃ならともかく、この衰退しきった体で、しかも30秒間の間にこれらのことを一気にこなすのは無理。
(つまり……近づいてスキルを発動するしかないってことだ……!)
30秒間の間でそれらのことを一気にするのは不可能だが、近づくこととラッシュを入れること、どちらか片方をすることなら問題なく可能だ。
そして優先度で言うと、ラッシュを入れることの方が限りなく高いため、近づいてからスキルを発動したいわけだが、近づくと言うことはそれだけ伸太に攻撃のチャンスを与えてしまうと言うこと。危険は必至。
ただそれでも、自分が育てることになるであろう最後の弟子ぐらい、誰の手も借りず、師である自分の手で助けたい。その気持ちが僕にはあった。
(成し遂げなければ……)
「グルゥ!!」
(ならないんだ!!)
そう心の中で叫ぶと同時に、接近して右ストレートを放ってきた伸太を対して、左ストレートで応戦。拳と拳がぶつかり合い、火花を起こしてぶつかり合う。
「ぐ、何……!?」
しかし、拮抗していたのもつかの間、ぐいぐい、ぐいぐいと伸太の爪が僕の拳を押し込み始める。
僕の拳だって何もしていないわけではない。スキルを使用して30秒たっぷり使い、周りからすれば音速を超えた一撃になっている。なのに押されていると言うことはつまり……
(あれの影響がスキルににまで……?)
と思ったその時、横からバシンと平べったいもので叩かれる音が聞こえたかと思うと、視界が自分の意思と関係なくぐるりと動き回り、体が浮遊感を覚える。
(吹っ飛ばされた……!?)
自分が吹っ飛ばされたとわかったなら話は早い。舌を出し、地面がどこにあるかを風の流れで察知すると、すぐに体制を整え、まるで新体操選手のように着地し、伸太の方を見やる。
(なるほど、尻尾か……)
あれの影響で新しく生えてきた半透明の紫色をした尻尾。攻撃された瞬間は見えなかったが、尻尾でひっぱたかれたのは間違いなさそうだ。
(普通の人間にはないからな……うかつだった)
それに加えあの威力となると……僕は早々に考え改めた。
(あれの影響がスキルに及んでるんじゃない……単純にパワーが高すぎるんだ)
実際、尻尾の威力もこれまた絶大で、さっきまで自分が居たところにはひび割れがすごい人のかかとかと思うほどのヒビが入っている。体の痛みから察するに、骨も何本かいかれてしまっている。
さっきまで互いに右腕を粉砕した一撃以外はほぼノーダメージだった僕が……だ。先ほどと比べて動きは地味だが、いかに一撃一撃の高さが普通の伸太からかけ離れているのかがわかる。
「グッ!!」
さらにそこから伸太は間髪入れず、腰あたりから生えている尻尾を伸ばし、こちらを射抜かんとばかりに発射してきた。
もちろんそれを回避しようと動くが、一度避けてもすぐに方向を変えてくるので、たった1本の尻尾にもかかわらず、まるで何十本もあるのかと錯覚してしまうほどの連続攻撃となっている。これでは近いうちにヒットすることとなるだろう。
(ぐっ……スキル!!)
伸太に近づいてから使いたいため、あまり使用したくはなかったが、その前にやられてしまうと本末転倒なため、ここでスキルを使用し、1秒間を1時間に伸ばした。
「よっ……と」
時間が止まったかのように、先ほどまでうるさかったステージ中が静かになる。これが僕のスキルによって操られた空間。観客もその場から動こうとしない。まぶた1つ動かない。まるで時間が止まったかのようだ。実際にはゆっくりになっているだけで、動いているのだが。
「せっかく1時間も時間ができたんだ。じっくり観察させてもらうぜ」
聞こえるはずもないその言葉を溢し、伸太に近づいて、さっきは時間が足りなくてできなかった紫色の鎧のチェックを再び始めた。