元気っ子
ちょい遅れ。最近忙しいです。
甲高い悲鳴をあげても、痛みに悶えそうになっても、俺の闘志は衰えるどころか、むしろ燃え盛っていた。
(痛え……けど!)
気を失うほどじゃない。
そう自分に言いきかせ、崩れ落ちそうな体をぐっと堪え、反撃の拳を放つ。
ただ、今までの戦いと比べれば生ぬるいテレフォンパンチだったため、上半身をそらすだけで回避されてしまったが。
「ふーっ……ふーっ……」
「……!」
黒のキングからはさっきまでの余裕の表情が消え、化け物を見るような目でこちらを見ている。
(こっちからしたら、化け物はあんただってのに……)
もうろくに軽口も叩けない。これからできることはただ1つ。ただ思いっきり体を動かし、目の前の化け物を肉餅にすることだけ。
俺は空を切った左拳を利用し、黒のキングに向かって振り払うような攻撃を行う。
「……っお!?」
当たれば御の字。そう思っていた振り払い攻撃だったが、思いのほか黒のキングの意表を突いていたようで、ギリギリ回避自体は行えていたものの、それはとても紙一重であり、黒のキングの顔は驚愕に染まっていた。
(なんだ……? 何の能力も入ってない普通の攻撃だぞ……?)
反射の能力を使えれば使いたいところだが、今の俺の反射は諸事情で使えない。なので本当に本当に、さっきも同じようなことを言ったが、当たればラッキー。やぶれかぶれな攻撃だったのだが……
何かがおかしい。が、どうやら俺にとって不利益なものではなさそうだ。ならそれを咎める理由は無い。
俺は続けて左足でのキックを行う。これもいたって普通のもの。
だが、やはり黒のキングのようすがおかしい。俺の左足が近づいていくにつれ、黒のキングの顔が焦りや焦燥にかられるように変化していく。まるでアニメでよくあるスローモーション。
「……ぐぬぉっ!?」
ただ、できたことは黒のキングの顔を変化させただけで、ダメージには至らない。うまいこと着弾スレスレで回避されてしまった。
多少の違和感を感じつつも、俺はできるだけ黒のキングに攻撃する時間を与えぬよう、連続で攻撃し続ける。俺にとって、何の変哲もない一撃を。
そんな一撃一撃を、黒のキングはまるで当たったら人生が終了するのかと思うほどの必死の形相で、回避し続けていく。明らかな異変だ。
観客席の人たちも異変を感じとったのか、怪訝な顔をして俺たちの戦いを見守っている。
俺が攻撃を放って、黒のキングがそれをギリギリで回避する。同じ場面をループするかのように、それがただひたすら行われていた。
……ただ、俺の体力は無限ではない。息つく暇もなく攻撃をし続けていれば尚のことだ。いつか限界が来る。そう俺は察していた。
そしてそれは、意外と早くやってきた。
「ぐっ……」
「!!」
俺の動きが急に停止したのだ。理由は単純に肉体の限界。横腹に穴が開き、右腕が曲がってはいけない方向へ曲がっている。動くたびに骨がきしみ、血管が飛び出て噴水のように血が噴き出す。そんな限界状況だったのだ。止まって当然。むしろここまでよく持った方だと言える。
体の停止。それはすなわち、相手からすれば千歳一遇のチャンス。これを逃さない手は、今の黒のキングの選択肢の中には入っていなかった。
「……よくぞここまで戦った……だが!! ここまでだ!!」
黒のキングは声を上げ、左拳を発射するための射出準備に入る。狙うはもちろん俺の腹。俺の意識を飛ばすにはもってこいだ。
黒のキングの体内に残された力が流動し、左拳に集まっていくのを感じる。なるほど、先ほどあそこまでのスキルの力を使っても尚、まだスキルが使用できると言うことはやはり黒のキングのスキルはMP制ではなかったのだろうと俺は推測する。もう推測する意味もないのに。
「王の席はまだ……譲れんな!!」
最後の決め台詞とともに発射されたそれは、先程の激突とも遜色のない最高の一撃。黒のキングの歳から考えて、全盛期ほどの一撃ではないだろうが、それでも俺にとっては席を立ち、涙ながらに賞賛を送りたいほどの素晴らしい一撃に見えた。
そんな拳は唯一の障害物である空を裂き、我が身の腹へと向かっていく。
当然、俺に対抗する手段はなく、観念するように頭を少し下に下げ、さも当然かのようにそれを受け入れた。
やがて、着弾したその一撃は……
パン!!
「……は?」
風船が割れた音に似た破裂音とともに、無様にも反射された。
「ああ……意味はないさ……」
「反射がなけりゃあな!!!!」
最後の最後の、ビッグチャンスだ。