黒のキングの感じた異常
(ぐぅ……)
久しぶりに感じる痛みだ。そういえばこんな感じだったな。
そう思いつつ、骨を粉々に破壊された右腕を見る。
ああ、なんと言うことだ。自分の1秒を何倍にもして、今の最大火力を出したと言うのに、まさか相打ちになってしまうとは。
(懐かしいなぁ……僕の血の色はこんなだったな……)
自分の血の色を思い出しつつ、粉々になった右腕から湧き出る血を左手で撫でる。自分の目は確認できないので定かではないが、僕の目は愛おしいものを見る目になっていることだろう。
左手の指についた血を眺めているのもつかの間、伸太が間髪入れずに蹴りを仕掛けてくる。
(おっと……)
スキルはともかく、肉体の性能差がすごい今、この一撃はもらえない。
そう感じた僕は、残っている左腕をうまくしならせ、右足での蹴りを何とか受け流し、返しの一撃を放つ。
が、それすらもわざと着弾地点に持ってきたおでこでガードされ、防がれてしまう。
(ふっ……)
それと同時に、自分の弟子が自分にここまでのダメージを与え、ここまで戦えるようになったことに対する満足感が、ドーパミンとなって脳内に快楽を与えてくれる。
(最初に出会った頃なら……これは絶対に無理だっただろうな……)
なるほど、これが生徒が立派になった時の教師の気持ちか。
(兵士を引退したら……教師を目指してみるのもありかもしれないな)
それも楽しそうだ……が。
(今の僕は……王だ)
教師を目指してみるのは未来の話。今の僕は黒のキング。田中伸太の壁となるべき存在だ。
なればこそ、今は全力でこの男の相手をしなくてはならない。超えられた時、心の底から信じて託せるように。
(負けるわけには……いかんのだ!!)
伸太の返しの一撃に、カウンターを合わせた。
ブチブチブチと、肉を引き裂く音とともに、左手から肉の海を突き破る感触がする。
この目で確認するまでもなく、左拳が伸太の脇腹を貫いたのが分かった。
(ぐっ……)
脇腹から感じる鋭い痛みと口から感じる鉄の味から、僕も中々、内臓に届くほどのダメージを受けてしまったのがわかったが、僕の受けたダメージ以上に伸太の方が大きなダメージを受けているのは明白だった。
(……終わった)
次に思ったことは、この勝負の決着はついた。それだけだった。
脇腹とは言え、体の1部を貫通させ、風穴を開けたのだ。そこから溢れ出る血の量はとてつもない。
普通なら、兵士生命が終わりかねないが、事前に用意してある上級ポーションを使えば、十分に回復することが可能だ。
「……隙ありだぞ!」
迅速に気絶させて医療室に連れて行く。そんな思いのまま、ぐらりと地面に倒れようとする伸太の体に、拳を入れて気絶させようとするが……
「ふーっ……ぎっ!!」
伸太は僕の予想に反し、左腕を使って何とかガードしてきた。
(なっ……)
さすがの僕でも、これは予想外だった。
腹に穴が開いているのだ。人間の身体能力関係なく、ぶっ倒れてもおかしくは無い……いや、倒れないとおかしい。
(……あ?)
足元には、流れ出た血で大きな水たまりができている。既に失神していてもおかしくない出血量だ。
この出血量でなぜ倒れない?
(……どうなっている)
……なんだ? この生き物は。
僕は一体……
(何と戦っているんだ?)
そう思いつつ、伸太の方を見ると……
伸太の目が、どす黒い紫に染まっていた。
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