一見、有利に見えて……?
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黒のキングとの拳と拳のぶつかり合い。その結果、お互いに右腕は粉々に砕け散った。
観客からすれば、お互いに右腕が潰れ、振り出しに戻ったと見せかけて、肉体のスペックの分、俺の方が有利だと見えるような状況だが、当事者である俺からすれば、現場は観客が思っている状況とは違う。全くの逆であった。
(くそっ……が……)
正直言って、あの一撃で終わらせたかった。
なんてったって、ほとんど全ての闘力エネルギーを込めた一撃だったのだ。黒のキングでなければ、その体は灰一つ残らなかったことだろう。
絶対にここで殺す。それほどの覚悟で打ち込んだ一撃のつもりだった。
だが結果、耐えられてしまった。
これにより、俺の体内に宿るほとんど全ての闘力エネルギーが消失。もはやスキル、闘力操作はあってないようなものになってしまった。
主戦力である反射がまだあるとは言え、今までの俺は反射プラス闘力操作でやっと黒のキングに対応できていたのだ。闘力操作が使えなくなったのはかなり痛い。少なくとも、これでスピードは完全に下回ってしまった。
黒のキング側のスキルがわからない分、黒のキング側のスキルが俺の闘力操作と同じMP制のスキルである可能性もあるが、俺の闘力より総量が単純に上回っている可能性もあるし、そもそもMP制ではない可能性も存在する。
肉体的にはこちらの方が優勢ではある。が、それ以上にスキルの差と言うのは天と地を決める絶対的差だ。
もはや勝ち目はない。勝ち目は無いのだが……
(まだ……負けてない……)
別に、黒のキングにそこまで思い入れがあるわけではない。ただその椅子が欲しいだけであり、黒のキング本人に対しては毎日同じような訓練をしただけだ。
だが、その訓練期間は、東一にいた頃の俺が最も欲したものの1つだった。
東一時代、俺はいじめられていた。それは生徒だけの話ではない。教師も同じようなものだった。
あれだけのいじめだったのだ。教師側が気づいていないわけがない。なのに助けてくれなかった。限界が来るまで、いや、限界が来ても放置するつもりだったのだろう。
生徒にも教師にも恵まれなかった俺にとっては、黒のキングと白のキングは、言うなれば初めての教師だった。
内容は語るべくもない単純なもの。模擬戦をして、その後反省会をする。ただそれだけ、ただそれだけの授業に、俺は新鮮さと成長感、そして何よりも楽しさを感じていたのだ。
(これは卒業試験だ。勝たなきゃ卒業できない……)
そう自分に言い聞かせ、己を奮い立たせる。
人間、頑張れば意外と限界のちょっと先へ行けるものだ。
「…………」
「…………」
俺と黒のキングはお互いに無言になり、さっきまでの派手な戦いが嘘のように、ゆっくりゆっくりと距離を詰める。
観客たちも俺たちの雰囲気が変化したのを感じ取ったのか、無言、静寂を貫いている。
そして、俺と黒のキングの距離が拳が届くぐらいになった瞬間……
「フッ!!」
無の時間を突き破るがごとく、右足が針のごとく鋭い一撃となり、俺の体から射出された。
静と動2つを重ね合わせた動き。人間と言う体の限界値。
だが相手は生ける伝説。人間と言う枠組みを超えた化け物であり、王だ。
(やはりか……)
案の定、俺の蹴りは左手で完璧に軌道をそらされてしまった。が、受け止められて体制を崩されるよりはマシだ。
俺はすぐさま飛び出した足を引っ込め、大地を2本足でしっかりと踏みしめる。大地を踏みしめるまでのタイムラグにより、黒のキングのターンとなった。
黒のキングが放ってきたのは左手のパンチ。それも威力重視ではなく、極限まで脱力し速度に全振りしたジャブのような左だ。
避けられないと踏んだ俺は、あえて拳の着弾位置に頭を持ってきて、おでこで受けた。
「!? ほう……!」
おでこは体の部位の中で1番硬いと言っていい部位だ。なので、パワー寄りな一撃はともかく、スピード寄りの拳なら、おでこの硬さで十分に抑えられる。
さらにガードに腕や足を使わないため、すぐに攻撃を繰り出せるのも強みだ。
(当たるな……)
黒のキングの拳が引っ込む前に、左での一撃を脇腹に差し込んだ。