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へし折れた黒剣

 脇腹に深々と突き刺さった拳。それは予想以上に重く、深い一撃となって、俺の脳に痛覚を体に送り込むための信号を発信させていた。


(これは……予想以上にっ……)


 黒のキングとの訓練中にも、拳をまともに受けたことはもちろんあるが、あの時の拳はここまでキツいものではなかった。


 明らかに強い。今までの訓練での行動は本気ではなかったと言うことか。


「ぐ、お……があっ!」


 痛みに悶えそうになりつつも、ギリギリのところで踏ん張った俺は、いまだに突き刺さる拳を振り解くため、姿勢の悪い状態から無理矢理体を動かし、右拳を打ち込む。


 動きの挙動がミエミエのテレフォンパンチだが、そんなテレフォンパンチも俺たちレベルになると音速かと思うほどのスピードだ。


「む……」


 そんなテレフォンパンチが功を奏し、黒のキングに脇腹から拳を抜き取らせ、距離を取ることに成功した。


 だが、距離を取らせることに対しての代償は、決して釣り合うものではなかった。


「痛ってぇ……」


 無理な姿勢から無理矢理パンチを放ったせいか、肩や腰からじんわりと痛みが広がる。この痛みを体験した人ならわかるだろう。長く続くタイプのやつだ。


(距離を取らせることに成功したのは……ラッキーだな……)


 あんなミエミエのテレフォンパンチ、どんなに速度が速かろうと黒のキングぐらいのレベルなら、目で追えなくとも射線を予測して回避し、さらに追撃を加えるなど造作もないことだろう。


 だが、あえて黒のキングは追撃せず、しっかりと距離を取った。これはおそらく、黒剣をどこからともなく生み出したのを見て、まだ何か奥の手が隠されているかもしれないと思ったのだろう。黒のキングは慎重かつ大胆な性格だ。その慎重の部分が表に出てきただけの話だ。


(黒のキングは俺を過大評価しているらしいな……)


 九死に一生を得た。そんな感覚がする。


 ホッとすると同時に、腹立たしい気持ちが胸の奥から沸き起こってくる。黒のキングが深読みをしてくたからよかったものの、あのまま深読みせずに攻め立てられたら勝負が決まっていたかもしれないからだ。


(俺はまだ……こんなに弱いのか……!)


 黒のキングとの訓練を終て、強くなった気持ちでいた。ただそれは本当に強くなったと思い込んでいただけだった。


 なんて愚かなんだ。前までの俺なら強くなった感覚のみで満足せず、そこらで対戦相手を見つけて今の実力のチェック、いずれ戦うであろう相手の対策、技の開発等を怠らなかったはずなのに。


 これは100パーセント自分の強さへの過信が生んだ準備不足。ある意味力不足よりも恥ずかしい、愚かの極みと言っていい行為だ。



 ありえない。許せない。力を過信していた自分自身が――――



「ふー……よし!!」


(反省終わり!)


 ――だが、それは途中で戦いを放棄する理由にはならない。準備不足なのはわかった。自分自身が愚かだったのもわかった。なら今すべきことは、このまま自分を自分で責めることではなく、今ある手札の中でどうやって価値を掴み取るか模索することだ。


「反省は終わったか?」


「……ああ、おかげさまでな」


(キングさまはすべてお見通しってわけかい……)


 心の中で悪態をつきながら、俺は与えられた時間の中で思案する。


 接近戦はどっこいどっこい。十分に戦えている。打ち勝てる確率は50パーセントといったところか。


(けど、50パーセントじゃ足りない……1パーセントでも多く可能性を上げる方法は……)


 もはや、あれしかない。

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