長年の感覚
俺と黒のキングの接近戦は、いい感じに拮抗していた。
「ぐおっ……!!」
「……ふん」
拮抗していると言っても、黒のキングの拳が軽いから耐えれているだけであり、こちらは一発も当ててはいない。
(どうする……? 使うか……?)
神奈川派閥に来てからあまり使用していない得意技。あれを使えば黒のキングにも一瞬ぐらいは隙を作ることができるだろう。
ただそれまでだ。それ以上の有効打にはなりはしない。
一撃入れただけで黒のキングが倒れるとは思えないし、もしかしたらそれでも回避されてしまうかも……
(とりあえず、相手がスピードで上回ってくるなら、こっちはパワーで上回るしかない!)
「ふううぅうぅ……」
俺は攻撃をさばきつつ、必殺の一撃を与えるため、右手に闘力を貯めていく。
(でも、避けられては意味がない……)
どんな攻撃であろうと、回避されてはゼロダメージだ。有限な体力や気力を持っていかれてしまう。
(だから……)
無数に飛んでくる拳の中から探すのだ。たった1つでいい。ちょうどいいところに飛んできて、合わせやすい拳を……
「っ!」
その瞬間は、意外と早くやってきた。
(っきた! ちょうどいい拳!!)
無数の拳の中から見つけ出した1つの拳。それは周りと同じようなスピードではあるが、俺の腰あたりを狙った一撃で、俺の拳の射線に入っている。つまり、わざわざ狙わなくても当たる位置に来てくれている。とても都合の良い拳なのである。
わざわざ相手から射線に入ってくれるのだ。拳の着弾位置を気にする必要性は無い。今まで拳のコントロールに使っていた気力も、何もかも威力に全振りすればいい。
「むぅん!!」
そうして発射された拳は……
「……っ!」
バチンとはじける音とともに、黒のキングの腕を吹き飛ばした。
単純に黒のキングの拳の威力のなさと、こちらの拳の威力が上手く噛み合った結果である。
しかし、黒のキングも負けてはいない。拳を衝突させた瞬間、押し勝てないとわかったのか、自分から腕の力を抜き、吹き飛ばさせた。腕のダメージを最小限に抑えたのである。
(本当ならこの一撃で片腕をお釈迦にする予定だったんだけどな……そこまでうまいこといかないってことか)
なら次考えるべきことはスキル関連の問題だ。
既に黒のキングも俺もスキルを見せ合った。ここからは間違いなくスキルを織り込んだ乱打戦になる。スキル同士のぶつかり合いを制するには、相手のスキルをいち早く理解するのが1番の近道だ。
普通なら、ここまで何度も対戦していればある程度目星がつくものだが、よくわからないというのが本音だ。
急に速くなったり、遅くなったり、瞬間移動したり……条件や論理も意味不明だ。
唯一わかるのが、黒のキングのスキル内容がエネルギー弾を出すようなものではないと言うこと。
(つまり、俺と同じような能力……)
瞬間的に移動するだけでも十分に不可思議な現象だが、火を操ったり雷を操ったりされるよりもまだマシな能力の内容だ。
スキルの内容的に近接戦しかできないからだ。近接戦なら今まで嫌と言うほど体験してきた。その分、スキル内容が定かではなくとも、何とか戦えている。
(とりあえず……動きが速くなる前提で戦うしかない)
「ふんっ!」
自分の中で考えをまとめつつ、強めのパンチで無理矢理隙を作ったところに、胸目掛けてジャブを放つ。それは見事なまでにヒットし、黒のキングの体を後ろに仰け反らせた……かに見えた。
「むん!」
黒のキングは体を前に引っ張り、普通なら数秒かかるところを、瞬時に戦闘態勢を整えてきた。おそらくだが、手と共に上半身も後ろに下げたおかげで、一見クリーンヒットに見える一撃も、そうでもないダメージに抑え込めたと言うことなのだろう。
(それもおそらく偶然じゃない……故意的にやったことだ……!)
俺があのパンチだけを強くした時に現れる目印のようなものはもちろんない。なのに回避できたのは、黒のキングの長年の経験からなる直感と言うやつなのだろう。
考えることによって生み出された結論からなる行動自体なら、俺自身納得もできる。
だが、今のように考えも理論もない直感で出された行動をされると、どうしてもこちらの攻撃のリズムが崩れてしまう。簡潔に言うと相手のペースに飲まれてしまうのだ。
(それだけは避けなくては……!!)
ありがたいことに、黒のキング側から接近戦を望んできてくれている。この間に少しでも黒のキングのスキルの理解やリズムを掴まなくてはならない。
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