立ち上がり
戦闘回は1話1話濃くしていきます。
(よし! 絶好調だ!)
開始の合図と同時に、かく乱の意味も込めて、ステージ上を飛び回る。
最初からわかっていたことだが、体がかなり軽い。改めて、今の俺は絶好調だと再確認できた。
(黒のキングは……?)
黒のキングも俺と同じく、開始の合図を聞いたと同時にステージ上を飛びまわっていた。
(これじゃ的を絞られない……と思うところなんだが……)
黒のキングの動きは、俺のようにかく乱を理由にしているとは到底思えない動きだった。
だって、黒のキングは俺との距離を図るどころか、俺についてくるような挙動をとっている。近接戦も望んでいるのが見え透けていた。
(いいぜ!!)
しかし、それは俺も望むところ。
俺は空中で黒のキングがいる方向に振り向くと、いつものごとく一気に近づき、殴りにかかる。
黒のキングも俺に対抗してか、俺に勝るとも劣らない速度で殴りに来た。あのひょろひょろの腕にコンクリートをたやすくぶち抜けるパワーが秘められていると言うのだから驚きだ。
しかし、それは俺も同じこと。迫ってくる拳に臆することなく、こちらの右腕を振り抜いた。
その結果、俺の拳と黒のキングの拳は衝突。肉同時とは思えない鈍い音を響かせながら衝撃波を放ち、地面にクレーターを、観客席に揺れを生じさせる。
「…………」
観客席から小さな悲鳴が聞こえるが、もちろんそれに反応することなく、俺と黒のキングはほぼ同時に跳躍し、距離を取る。
(一応、いつでも最高火力は出せるが……まだ我慢だな)
いつもなら、俺の速さに慣れていないうちに距離を詰め、一気に最高火力を叩き込んで倒しているところだが、相手は黒のキング。何度も拳を交えている相手だ。お互いに手の内を知り尽くしている。
無論、俺の速さも。
よって、ここで無理して距離を詰めるよりも、常にミッドレンジに体を置き、いざと言う時のみ距離を詰めて戦うのが無難だろう。
「すうーっ……」
俺は空気を大きく吸い込み、肺に空気を詰め込み……
「ふっ!」
一気に肺から空気を吐き出し、足で地面を強く踏み込む。その衝撃で地面は割れ、瓦礫が空気中に散布された。
「むん!!」
すぐさま右腕を前に出し、空気反射を発動。その勢いで無数の瓦礫が勢いよく射出され、黒のキングへと向かっていく。
「甘いわ!!」
しかし、黒のキングはすぐさま反応、その場から動かないレベルでの最小限の動きにより、いともたやすく回避されてしまった。
「お前は石ころを投げるのが得意だな?」
「ぬかせ!」
俺は足を踏み込み、接近戦をするため真っ直ぐに黒のキングへ向かっていく。
いつもならこんな直線的な動きは絶対しない所なのだが、黒のキングにも有効な攻撃は接近戦にしかないため、迎え撃ってくるだろうと言う読みだ。
そして黒のキングは俺の予想通り迎え撃ってきた。中心で打ち合う形だ。
まずは俺の右拳が顔面めがけて飛んでいくが、あまりにもたやすく回避されてしまった。その隙を利用して黒のキングも左のパンチを仕掛けてくるが、体を捻っていなす。
「流石に当たらないか……!」
「まぁな」
俺には武術の経験がない。だが、今までの経験にキングとの訓練の経験値がプラスされ、武術を持つ兵士とも、反射なしに互角に打ち合うことを可能にしていた。
「じゃ、少し速くいくぞ」
黒のキングがそう言ったのを皮切りに、拳のスピードがどんどん速くなっていく。まるでエンジンのギアを上げたかのように、飛躍的に上昇していく。
「これは……!」
(間違いない。スキルの効力!!)
そしてこのスキルの使い方は見たことがない。訓練所で訓練していた時は見せていなかった。
(とっておきってことか……)
初見の技に対応するのは並大抵のことではなく、どう対応するか考えている合間にも、2発ほど腹に受けてしまった。
(だけど、たいした威力じゃない)
正直、痛くも痒くもない。あの体と腕に見合った威力だ。
初めて戦った時のような埒外の威力ではない。それだけでだいぶ安心感がある。
(一撃でひっくり返されるよりは、細かいのを当ててもらった方がまだマシだ!)
こちらにはまだ得意技があるし……な。