場違い
ちょっと一泊〜
黒のキングの登場。それだけならここまで観客が沸き立つこともなかっただろう。
しかし、観客たちは間違いなく、黒のキングの登場だけでは説明がつかないほどの盛り上がりを見せていた。
理由は簡単。ここに登場した黒のキングは登場するだけではない。これから戦うからだ。
黒のキングの戦いを知っている者は、またあの天下無双、獅子奮迅の強さを見ることができるのかと思いを馳せ、見たことがない者は、人々がここまで心酔する黒のキングの強さとは一体どれくらいなのかと期待を膨らませる。
1種のノスタルジーとこれから始まる戦いへのドキドキ。それが観客を想定以上に沸き立たせるスパイスとなっていた。
『続いて、黒の巨星に挑む新星! 田中伸太の登場だー!!!!』
司会者のコールとともに、黒のキングが登場した出口とは真逆の出口から煙が噴出。それを掻き分けるように、日本人にしては背が高めの青年が姿を現す。
「「「ワアアアアアァァァァ!!!!」」」
黒のキングほどではないにしろ、こちら側もそれなりの歓声が沸き立つ。
伸太自身はあまり自覚がなさそうだが、伸太は今注目の成長株なのだ。日頃から神奈川ランキングを見ている人間なら、知らないわけがなかった。
田中伸太の登場に、黒のキングも口角を大きく上げる。
「ちょっと待ったああぁぁぁぁー!!」
が、たった1人だけ、田中伸太の登場を容認できない人物がいた。
鼻が高く、金髪で肉付きもすばらしいイケメン。彼の正体とは……?
――――
「……」
俺は横から入ってきた部外者の声に耳を傾けず、じっと黒のキングを見つめていた。
「みんないいのか!? こんなぽっと出のやつにこんなチャンスを奪われて!!」
(たまんねぇ……)
東一時代は、周りに自分の強さを見せるチャンスなどほとんどなかった。と言うか、弱すぎて相手の強さを引き立たせるためのやられ役だった。
「こんな冴えない顔のやつよりも、もっと華のある……そう! 僕のような人間を採用すべきだ!!」
しかし、今は違う。それ相応の強さを手に入れた。おあつらえ向きの舞台も用意された。
(後は実力を出し切るだけ……)
「それだけじゃない!! 僕は強さも持ち合わせている!! 何を隠そう、あんなやつが神奈川派閥に来るまで、僕は神奈川男性ランキング――――」
そうだそうだと、神奈川派閥の男性兵士を中心に抗議の声が上がり始めた。その時だった。
「うるさい」
その一言とともに、その金髪イケメンは壁にめり込んだ。