黒き巨星
ちょっと前に書いたキングのお話の続きになっております。
妙な奴。それが田中伸太に対する第一印象だった。
行きつけの喫茶店で遭遇した何の変哲もない男。若々しい顔からは、最近兵士の仲間入りをしたのかと思わせるが、体から放たれる雰囲気は歴戦の兵士そのもの。それこそ、戦争全盛期、互いの肉を切り合っていたあの頃の兵士と遜色ないほどのものだ。
「まるちゃん。あの男……」
「……ああ、とんでもないな」
あまりにもいきなりすぎる遭遇にニヤケが止まらない。
僕たちレベルになると、雰囲気や佇まい、歩き方だけで対象人物がどれくらいのレベルか、大体は理解できる。
今まで様々な人物を見て、相手して、育ててきたが、初めて見た時点でここまで完成された男は見たことがない。この男を物で表現するなら道端に落ちていたダイヤモンド。
神奈川派閥の未来。その暗さに気持ちを沈めていたところに転がってきた磨く必要のないダイヤモンド。
(こいつをキングにすれば……)
はっちゃんも同じことを考えていたのだろう。目は真剣そのものだが、口元はいやにニヤついていた。
そこから数日、奴を喫茶店で見続けた。
落下しただるまを地面ギリギリで掴み取るなど、片鱗を見せる部分もあったが、特に接触したり、話をすることもなく過ごしていたが、とある日、煮えを切らしたのか、はっちゃんがアクションをかけてきた。
「青年よ、問おう……強さとはなんだ?」
人間なら誰しもがぶち当たる疑問。強さとは何か。この究極の質問の答えは、僕やはっちゃんもいまだに出せていない。
できてしどろもどろな発言をするくらいしかできないだろう。そんな質問に、やつは即座にこう答えた。
「雲」
(!!)
それ以上の言葉は、やつ本人が喫茶店から出てしまったため聞くことはできなかった。
が、それ以上に質問に対して、やつが即答したことが信じられなかった。
やつは強さに対しての答えを知っているのだ。だから即答できた。だからあの若さであそこまで極めているのだ。
その答えがなぜ雲なのか、知りたいという欲求は告げられた直前にもかかわらず限界まで高まりきっていた。
その夜、僕たち2人はあの男に本格的に接触する決意を固めた。
――――
結果的に、接触すると言う選択は大成功だった。
やつ……田中伸太の戦いぶりは僕たちの予想した枠を超え、神奈川派閥の男性兵士の中ではトップクラス……いや、僕たちを除けば実質的なトップと言えるほどの力を有していた。
どこでそこまでの力を高めたのか、なぜそこまでの力を持っておきながら、今まで表舞台に出てこなかったのか、疑問はあるが、そこを聞くのは野暮と言うものだろう。何か事情があったに違いない。
結局のところ、田中伸太と言う存在は、僕の期待を裏切らなかった。
しかし、僕には1つ、田中伸太に対して誤解していたことがある。
それは、田中伸太は強さを極めた存在だと思っていたことだ。
あれのどこが極めていると言うのだ。全くたどり着けていない。いや、悪口ではない。僕以外から見れば、ある1つの到達者だと思われてもおかしくない。ただこの男は違うのだ。さらなる領域へ……強さのゴールである到達者の地点から、再スタートを切ろうとしているのだ。
むしろ、自分のことを到達者とも思っていないかもしれない。田中伸太と言う男が求める極地は、さらにその先にあるのだから。
(やつが求めるのはabnormalか……はたまた……)
ともかく、田中伸太は前人未到の領域へ行こうとしている。
それこそ、全盛期の僕やはっちゃんでもたどり着けなかった領域へ。
(……だから、感じてみたくなったんだ)
さらにその先へ行ける。そんな可能性を持った男の力を……練習試合や訓練でではなく、真剣勝負の戦場で。
(可能性を……未来を……)
何よりも……
(田中伸太の力を、魅せてくれ)




