その後のプロモーション戦
次回は黒のキングのお話です。
袖女の戦い。第7試合が終わった後のプロモーション戦は、何の滞りなく進んでいった。
俺VS黒のキングの戦いが決定した頃は、かなりざわつき、観客の多くが手元にあるスマートフォンで、田中伸太とは何者なのか調べていたらしいが、その流れもしばらくすると収まり、第9試合が始まる頃には、発表される前のテンションに戻っていた。
しかし、圧倒的すぎる黒のクイーンの戦いに、見せつけるような白のクイーンの戦い。死力を尽くした袖女の戦いと、盛りだくさんすぎた前半戦と比べれば、いくばくかのトーンダウンは免れなかった。
そんなこんなで、前の種目で選出された兵士を含めた全試合が終了。結局のところ、チェス隊以外での順位の変動はほとんどなかった。
「ふーっ……」
俺は口から大きく息を吐く。これからやることが憂鬱だからではない。今すぐにでも部屋を飛び出して、あの顔面をぶん殴ってやりたい衝動を抑えるためだ。
「さ……出番ですよ」
「……ああ」
袖女に催促され、俺は席を立って待機室から出る。そこから袖女の誘導で、ステージの中心、さっきまでプロモーション戦が行われていた場所へ出るための出口に案内された。
「ここからはまっすぐ行くだけです。私は行く権利がないので、ここからは1人でお願いします。もちろんブラックも」
「ワウ」
「ああ……そういえばお前、驚かないんだな」
キングがなぜプロモーション戦に出場しないのか、プロモーション戦が行われている間に聞いたのだが、実質引退しているかららしい。
そんな伝説の男と同居している男が戦うのだ。普通動揺してもおかしくは無いはずだが、袖女は最初の頃焦っていた位で、今はかなり落ち着いている。そこを俺は疑問に感じたのだ。
「あなたならいつかこうなるって思っていましたからね……それに、キングになりたいのでしょう? なら、いつかこうなると思っていましたから……あなたのことですし」
しょうがないなと言わんばかりの顔で袖女は返答する。
「そうだな……そういえばそうだ」
キングを目指す以上、近いうちにこうなっていたことは間違いない。それに反応を求めること自体が億劫だった。
「……勝ちますよね?」
「少なくとも、お前の前では負けないさ」
――――
プロモーション戦全試合の終了。それはプロモーション戦メインイベントの終了を意味し、いつもなら観客席に座っていた観客たちが、ステージの外へと流れ出す時間帯だ。
前までは。
今年は全試合が終了しても、観客席を立つ人物は1人としていなかった。
答えは簡単、この後、プロモーション戦よりももっとすごい出来事が待ち受けているからである。
観客全員が黙り、その時を待つ中、司会者がその沈黙を破るように、ポツポツと言葉をこぼし始めた。
『……我が神奈川派閥の歴史の中では、様々なキングが生まれてきました。その王たちは、その座についた時間こそ違えど、それぞれが誇りを持ち、我々を照らす太陽となってくれる存在でした』
『しかし、王も人間。太陽と同じように、ゆっくりと沈みゆく存在なのです』
『現在のキングも例外ではなく、歳を取り、老い、プロモーション戦からも、最前線からも姿を消しました』
次第に、観客たちのボルテージが上がっていく。
『ですが! 太陽は再び昇る運命にあるのです!』
その瞬間、2つの出口のうち、片側から煙が勢い良く噴出し、そこから1人の人物が姿を現した。
『黒のキング、丸山大吾!! 黒き巨星の再臨だああぁぁァァー!!!!』
「「「「ワアアアアアアアァァァァぁぁぁぁーっ!!!!」」」」
国民からの期待。何よりも重いそれを一身に背負って。