侵入者
黒のクイーン視点。続きです。
「……っっ! やられた……」
私は監視室でそうつぶやいた。
少し前、私は倉庫を荒らした犯人を特定すべく、監視カメラの映像がある監視室に向かった。
監視室も倉庫も同じくステージ内にあるため、たどり着くのにそこまで時間はかからなかった。
しかし、そこにある監視カメラに映っていたのは、予想通りの、だが信じたくない光景だった。
「やっぱり……倉庫にあった物が宙に浮いている!」
宙に物を浮かせる能力でもなければありえない現象。反重力技術も考えたが、個人でそこまでの技術を使えるとは考え難い。と言うか半重力技術が使えたとしても、地面から数ミリ浮かせるのがせいぜいだろう。
それよりも、よっぽど確率の高い可能性が1つあった。
(大河を殺した人物と同じ……透明人間!!)
これと同じ現象を、奇しくも同じく監視カメラで見たことがあったからだ。
これが意味することは1つ。あの時と同じ透明人間がプロモーション戦と侵入してきているということだ。
しかもたちが悪いことに、その透明人間はかなりの戦闘力を有している。それこそ、我がチェス隊メンバーを殺せるほどの。
「ど、どうしますか? これではいざと言う時の治療が……」
心配そうな表情をしながら、監視室の門番が私に話しかけてくる。
「わかっているわ。けど……」
それではせっかく開催した意味がない。ステージを建てるために使った費用を回収できないまま終わらせてしまう。
お金と命を比べるのかと思うかもしれないが、派閥レベルで視野を広げると、お金は時に命より大事になってくる。
「……プロモーション戦は続けます」
「ク、クイーン!!」
「ですが、その代わりに総医療長にはフルで働いてもらいます。試合が終わった後の兵士たちにはチェス隊関係なく総医療長のチェックを受けてもらいます。それで何とか対応できるはず」
絵理子に心の中で謝罪しつつ、目の前にいる門番に指示を飛ばす。
「それと、警備員の人数を増やして警備の強化を図りなさい。宙に浮く物体を発見したら、手を出さず、すぐ私に連絡すること。いいわね!」
「は、はい!」
正直、この程度のことで透明人間が止まるとは思えない。が、プロモーション戦でチェス隊メンバーが動かせない以上、プロモーション戦を開催しながらする対策方法はそれしかなかった。
(胃が痛いわね……トップは……)
田中伸太と黒のキングが戦うことを知るのは、あと数分後の話である。