真実
俺は袖女にポーションを渡した後、なくなった食べ物を買い足すためにステージの外に出て屋台に赴いていた。
「ママー。なんか変なにおいするー」
「……あら? ほんとね……鉄の匂い?」
(……やべ、臭うかな……)
屋台の列に並んでいた親子からそんな言葉が聞こえる。俺は慌てて服の裾を嗅ぎ、匂いをチェックした。
(確かに匂うな……血はすべて拭き取ったと思ったんだが……)
親子の言う鉄の匂いとはおそらく、いや間違いなく俺の服から漂う血の匂いで間違いない。頭を吹き飛ばした後、一応その場にあったタオルで拭き取っておいたのだが、少し甘かったらしい。
まぁ、俺の常にいるところは個室だし、帰ってから袖女に頼んで洗ってもらえばいい。
(袖女が動けるようになったのも、上級ポーションのおかげだな)
上級ポーションがなければ、袖女は今頃大怪我をして、俺の服の洗濯などやってられない状況にあっただろう。
(あの人が上級ポーションの場所を教えてくれたおかげだな……)
俺は食べ物が入った袋を両手に抱えながら、上級ポーションを手に入れる前のことを思い出していた。
――――
「ズタズタだな……」
袖女の勝利。それは俺の心を安堵させた。
だが、それと同時に袖女の体の傷が、俺の心を不安にさせる。
袖女が怪我で寝込んでしまったら、一体誰が部屋の家事をするというのだ。
食事は外食で何とかなるとは言え、それ以外の掃除やら何やらは本当に何もできない。袖女が帰ってくる頃には、あの部屋は元の何十倍も汚くなっていることだろう。
どうにかして袖女の怪我を完治させなければならない。そしてその方法は分かっている。
(上級ポーションさえあれば……)
上級ポーション。それも神奈川製のものが複数本あれば、あの程度の傷等一瞬で治してしまうだろう。
ただ問題は上級ポーションがある場所だ。
単純にどこにあるかわからないのに加え、たとえわかっていたとしても、そこは厳重な警備体制で守られているに違いない。
「職員に話しかけて情報を聞き出すか」
ここは俺の話術の出番だ。ほとんどやったことはないが、やらなければ何も進まない。ここはとりあえず外に出て職員を探そう。
「行くぞブラック」
「ワン!」
ブラックが足元に近づいてついていく姿勢を取ったのを確認すると、ドアを気合を入れて一気に開き……
「よう」
「……あ?」
前に進もうとしたが、その前には、黒のキングこと、師匠がそこにいた。
「……何の用だ?」
出鼻をくじかれたが、とりあえず関係者に出会えたことは好都合だ。相手に用がなければこんな所には来ないはずなので、とりあえず話を聞いてみる。
「お前のことだから、これを探しているんじゃないかと思ってな」
黒のキングはそう言って、中身が見えない真っ黒なポーチを渡してきた。
「なにこれ?」
「…………」
俺のその問いかけに、黒のキングは何も反応しない。言葉に出せないようなものなのか?
(気味が悪いな)
内心そんな思いを抱きつつ、ポーチの中身を自分にしか見えないようにチェックすると、そこには液体が入った透明なフラスコとこのステージの地図が入っていた。
「これって……」
「何も話すなよ」
思わず中身を口に出してしまいそうになった俺を、冷たい口調で黒のキングは静止する。
しかし、中身を見た俺が思わず声を出してしまいそうになるのも無理は無い。
中に入っていたのは、正真正銘、俺が探そうとしていた上級ポーションだったのだから。
これは話さないのも納得だ。俺たちの会話がどこかで聞かれているかもしれない。
そんな俺の心の動揺などつゆ知らず、黒のキングは真剣な面持ちで俺に話しかけてくる。
「それだけではまだ足りない。その地図にはあらかじめマークをつけておいた。そのマークの場所には倉庫がある。その中にお前のお目当てのものが入っているはずだ」
「……なるほど」
つまり、黒のキングは『自分で奪え』と言っているのだ。
俺はニヤリと口角を上げる。奪うのは得意分野だからだ。
「……それに、ウォーミングアップにもなるだろう」
「あ? ウォーミングアップ?」
「何でもない。忘れてくれ」
何やら気になる発言があったが、そんなことはどうでもいい。今は爆速でその倉庫にある上級ポーションをぶんどりに行かなくては!
「じゃあ行ってくる」
「おう。何とかしてこい」