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上級ポーション

 イズナの容態を聞き、私がいの一番に思ったのは、どれくらいで治るのかだった。


「それらは完治するまでどれくらいの時間がかかるの?」


「私が手を入れれば……ざっと1週間位」


「1週間ね……」


 遅すぎる。


 一般人からすれば、これだけの重体がたったの1週間で完治するのかと驚いただろう。


 しかし、他でもない絵理子が手を加えて1週間はあまりにも長すぎる。それほど絵理子の手術の腕は卓越しているのだ。


「あなたにしてはかなり遅いわね?」


 その言葉に絵理子はビクリと肩を跳ねる。やはり何か隠しているようだ。


「い、いやぁ〜、私も長い間前線に立ってないからなまっちゃって〜……ふひひ……」


「嘘ね」


 絵理子はさらに肩を跳ね上げる。何かを隠しているのがバレバレだ。


「話しなさい」


「い、いや……でも……」


「話しなさい」


「……話すほどのことでも……」


「は、な、し、な、さ、い」


「……はい」


 全くめんどくさい同僚だ。ここまで言わなければならないのだから。


 そのくせ総医療長なんて上の立ち位置にいるもんだから、部下の子たちは大変だろう。


(さて……どんなものなのやら……)


「じ、実は……『薬指にキスをして』の作者さんの原画展示会が「そんなんいかずに仕事しなさい」……そ、そんな……」


 瞬間、絵理子の表情が絶望に染まる。展示会に行けないのがよほど嫌らしい。


「で、でも……」


「……やること終わったら行っていいから、あなたがフル稼働して完治する時間を教えなさい」


 そう言うと、絵理子はパァっと表情を明るくさせる。なんとも解りやすい生き物だ。


「ま、待って! 計算するから……えーっと、3日ぐらいかしら?」


「ふむ……ならそれでお願い」


 田中イズナの話題はそれで終わりになりそうだったのだが、絵理子がぼそりとこぼしたその言葉が、私に話を切らせることを躊躇させた。


「上級ポーションさえ使わせてもらえれば、一瞬で治るんだけどなぁ……」


 上級ポーション。それは1本でもあれば、骨折した腕さえも1日で元通りにしてしまう代物。


 神奈川派閥は科学力が発達した派閥であり、神奈川派閥で作られるポーションは群を抜いて質がいい。いわば神奈川派閥はポーションの名産地なのだ。


 しかし、そんな名産地と言えど、上級ポーションともなると生産数は少ない。ただ欲しがる人間は山ほどいる。その需要と供給の釣り合わなさから上層部の人間に目をつけられ、昔から神奈川派閥内でも使うタイミングや使用数を制限されているのだ。


 ならば中級ポーションや下級ポーションを多く使えばいいじゃないかと思うかもしれないが、そううまくはいかない。


 ポーションには『中毒症状』と言うものがある。人体に必要以上のポーションを投与してしまうと、強烈な眠気と同時に激烈な痛みに襲われるのだ。


 そしてその眠りから目覚めてしまったら最後、麻薬に勝るとも劣らない依存症にかかってしまうのだ。


 よって多量に効力の弱いポーションを使うわけにはいかない。


 そのための上級ポーションなのだが、上層部に使用を制限されているのが現状だ。


(普通は触ることすらできない。だけど……)


 今はプロモーション戦。チェス隊メンバー同士がぶつかり合うお祭りだ。


 実力者同士がぶつかり合うお祭りのため、最悪の出来ことも考えて、倉庫にしまってある最高級の上級ポーションをいくつか使うことを許されている。


 上級コーションを使う権限を与えられているのは、白と黒、それぞれのキング、クイーンの4人のみだ。


 つまり、私にはあるのだ。上級ポーションを使う権利が。


 そして絵理子はその権利が私にあることを知っている。だからこうやって私に聞こえるように上級ポーションの話を口にしたのだろう。


(こいつめ……)


「はぁ……倉庫に行ってくるわ」


「!」


 倉庫に行ってくることを聞いて、絵理子はまたしても嬉々としてリアクションをとった。


 倉庫はプロモーション戦を開催しているステージ内にあるため、倉庫に行くこと自体はそこまで時間がかからず、何の支障もなく倉庫にたどり着いた。







「……なんで……」







 倉庫を警備していた警備員の頭が爆破され、倉庫の中にあったはずの上級ポーションが全てなくなっていたことを除いて。

 




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