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執念バトル 他視点

 黒のクイーン視点

(イズナ……! 何をしているの……?)


 時は少し遡り、浅間ひよりがまだ串刺しにされていた頃、特設席で観戦していた私は気が気ではなかった。


 人間とは時に不可思議な行動する生き物だ。明らかに効率の悪い手段なのに、それに何とか縋ろうとする。


 そんな人間の不可思議な行動。その原動力は感情だ。


 感情と言うのは生物すべてに与えられている神からの賜り物である。


 しかし、感情と言う形のないものからエネルギーを生み出す機能が組み込まれているのは人間のみである。そのため、真に感情を使いこなせているのは人間のみだといえよう。



 そしてその機能は、時間が経つごとに動作し始める特徴がある。



(このままでは何をしでかすかわからない……とっととけりをつけるべきなのに……!)


 イズナはそんなこと知らないとばかりに、浅間ひよりの前で見せつけるように喋り続ける。あと少し、ほんの少し体を動かすだけで勝利が待っていると言うのに。


 そんな私の予感は当たり、浅間ひよりは一切の予備動作もなく、イズナを殴りつけた。


(若気の至りか……?)


 練習試合ならまだしも、プロモーション戦。ましてや田中イズナにとっては人生の重要な分岐点になるであろうこの戦いで油断をするのは若気の至りとしか言いようがない。


(いくら安全だとは言っても、そこで止めを刺すのが正解だった……)


 そこからは結界で距離を取ることなく、完全に取っ組み合いだ。


「はぁ……」


 イズナの行動があまりにも愚かに見えたのか、近くに座っていた凛の口からため息が溢れる声が聞こえてくる。


 わざわざ浅間ひよりの望んでいたであろう近接戦闘に自分から飛び込んでいったこの行為。普通なら凛のようにため息をつき、一体何馬鹿なことをやっているんだと思うだろう。


 しかし、私は違った。


(……?)


 先ほどの完全な油断とは目の色が違う。どこか狙っていたような、目の奥に密かな願いを秘めた色を感じる。


(……まさか)


 チェス隊の中ではまだまだ新人とは言え、イズナとは1年間チェス隊メンバーとして共に過ごしてきた。なのでイズナのスキルはある程度、もしくはそれ以上に把握している。


 イズナの結界師は一貫して防御力が高く、攻撃力が低いものばかり。ソード結界フィールドでまともなダメージが与えられるくらいだ。盾は……まぁ、うん。


 しかし、その中でも1つだけ、攻撃力に全振りした結界がある。イズナいわく、いざと言う時にしか使わない切り札。


(あれを……?)


 その予感は見事的中し、イズナの詠唱に続いて、巨大な魔方陣がステージいっぱいに広がった。


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