執念バトル その6
田中イズナ視点です。
私がなぜ、浅間先輩相手に自分から接近戦を挑んだのか。それには前から考えていた『二の矢』が密接に関わっていた。
私の能力『結界師』には能力発動までの詠唱によるタイムラグがある。これは簡略化することができないし、避けて通ることのできない絶対のルールだ。
では私の課題は、いかにして詠唱し終わるまでの時間を稼ぐかだ。
今までは盾や剣で距離を取り、こちらに近づくまでの時間を物理的に作って、詠唱する時間を稼いでいた。
しかし、既にそのやり方は浅間先輩に見切られており、逆に逆手に取られる可能性がある。
……なら、あえて真正面まで接近して体を掴み、動きを制限してやればいい。
浅間先輩の心情を考えると、向こう側が接近戦を望む可能性は確定に近いほど高く、接近すること自体はたやすいので、現実味のあるかつ再現性もある。まさに最善の選択だろう。
無論、私も先輩も体がボロボロな以上、やれることには限度がある。普通に判定勝ちを狙うなら、むしろいつも通りに距離を取った方が可能性はあるだろう。
しかし、私はあえてその選択肢をとらなかった。
(倒して勝たないと意味はない!!)
判定勝ちなど勝利とは言わない。戦いにおいて、相手を倒してこそ本当の勝利だ。
何より、判定で勝ってもかっこよくないではないか。せっかく勝つなら誰にも文句は言わせない。完膚無きまでに圧倒的な勝利が欲しい。
(勝つ! 勝って兄を迎えに行く!!)
だから判定勝ちなんて選択肢、私の頭にはなかった。
では一体どうやって倒して勝つか。簡単なことだ。私にはまだ使っていない切り札がある。その結界は超高火力のかわりに制限時間という制約が新たについた結界だ。制限時間がついた割には射程距離も他の結界に比べて短く、隙も大きいため防御に向かない。本来なら失敗作扱いされるべき代物だ。
使う結界は決まっていた。後は体を掴むだけ。
「だから……こうしたかったんだ!」
「……っ! このっ……離せ!」
浅間先輩の両手をこちらの両手でがっしりと掴み離さない。これで攻撃を封じた。
もう浅間先輩には攻撃手段はない。これは大きな隙だ。
隙は作った。攻撃手段も封じた。相手の意表をついた。もう詠唱できない理由はない。
「魔法結界!!」
詠唱と同時に、私を中心にした巨大な魔方陣が出現した。