執念バトル その5
「こんのォ!!」
「っああああ!!」
先ほどまでとは一転。お互いに拳を握り締めた接近戦。
こちらとしてはばっちこいと言わんばかりだったが、まさか相手側から仕掛けてくるとは思わなかった。
ただ、私の頭には接近戦で不利になると言う考えは頭になく、むしろやっと流れがこちらに向いてきたと思っていた。
それもそのはず、オーラは枯渇しあまり使えないものの、田中イズナもここまで近距離だと剣を飛ばすことはできない。勢い余って自分の体まで巻き込んでしまう可能性があるからだ。
つまりお互いにスキルが使えない状況。その状況下ならば、単純な身体能力が高いこちら側の方が有利。そう考えていた。
「ぐふっ!?」
しかし、蓋を開けてみればお互いの被弾数は五分五分。殴っては受け。蹴っては受けての連続だった。
私の期待を裏切るまさかの展開。その秘密は体の状態にあった。
もちろんだが、私も田中イズナもここまでの戦いでいくばくか被弾し、ダメージを受けている。ここまではいい。問題なのはその被弾数と威力だ。
田中イズナはここまで、私の拳何発かとオーラナックル数発、新技のフラッシュナックル一発と、全体的に見るとそこまで多くない。それでも威力が高いため、田中イズナの体はボロボロになっただろうが。
対して私は拳や盾での細々としたダメージに加え、剣で串刺しにされた。それも何本もだ。威力もダメージも尋常ではない。さらに傷口から溢れ出る血が、私の意識を朦朧とさせ、痛みを広げていく。
これを見て分かるように、お互いに受けたダメージはほぼ同等、もしくは血が多量に出ている分、私の方がダメージは大きい。
ちょっとやそっとのダメージならともかく、ここまでの長期戦において、ダメージが多量に蓄積されてしまった現状では、肉体のスペックはおろか、戦闘技術もさほど意味をなさない。体が疲れすぎてこまめな動きができないからだ。
ここまできた戦いはもはや体の傷つけ合いではない。どちらが先に気持ちが切れるか、気持ちを傷つけ合いだ。
(どちらが先に気持ちのガソリンを切らすか……これは消耗戦だ!)
「くらえ!!」
田中イズナが無造作に右ストレートを放ってくるが、その動きは今の私から見ても拙いの一言に尽きる代物。万全な状態の私なら余裕で払い除け、男なら反撃の一撃を当てることができるだろう。
しかし……残念ながらそれはできない。
「ぐっ……」
私は右ストレートを顔面にもろに受ける。目では見えていても、体がもう動いてくれない。出血多量で体の限界が近いのか、もはや指を握りしめることすら難しくなってきているのだ。
しかし、反撃しないと。反撃しなければ気持ちが勝手に切れてしまう。体に力が入らなくなってしまう。そうなれば自動的に負けだ。
(そんなこと……)
「なって……たまるかぁ!!」
私はなんとか力を振り絞り、左アッパーを放つ。
「……っああああ!!」
が、田中イズナは左アッパーに対し、なんと目をカッと見開いて、左手で拳を受け止めたのだ。
「……っ!!」
これではダメージが入らない。頭の中にその考えが浮かんだ瞬間、反射的に自由な右腕を振り上げ拳を作り、なんとかダメージを与えようと、田中イズナの顔面に向かって発射する。
「ぐぬうっ!!」
なんとそれにも田中イズナは反応し、右手でがっしりと私の拳を掴む。これで右手も左手も、田中イズナに掴まれた状況となった。
(しまった! これでは――――)
下から蹴りの攻撃が来る。そう感知した、が……いつまで経ってもそれがこない。むしろ田中イズナからはこれから攻撃に転じようと言う気持ちよりも、この状態を維持しようとする気持ちが感じ取れた。
「? 何を……」
「……この時を……」
「この瞬間を待っていたんですよ……!! 先輩さんよォ!!」