執念バトル その4
突如始まった私と田中イズナの近接戦闘。その火ぶたを切ったのは、田中イズナの右ストレートだった。
本当はこっちから先制攻撃を仕掛ける予定だったのに、田中イズナの予想だにしない行動に戸惑い動きが遅れ、相手から先に先制攻撃されてしまった。
「……っぶな!?」
しかし、先制攻撃されたからといって、私と田中イズナとでは体に蓄えられた接近戦の経験値が違う。
右ストレートが来たと分かった瞬間に背中を逸して回避に成功していた。
「今度はこっちが――――」
手を出す番。そう思いながら右手で拳を作り、射出しようとするが、それよりも早く、田中イズナは空いていた左手で私の脇腹を狙ってきた。いわゆるレバーブローだ。
(避けられない……けど)
背中を逸した状態で脇腹あたりに来る攻撃を回避することは不可能だが、私にはまだ空いた左手がある。
私は瞬時に左手を脇腹あたりに持ってきて、レバーブローを何とか受け止めた。
これでもう、田中イズナにすぐさま出せる攻撃手段は無い。
「今度こそ――――」
体制はかなり悪いため、威力は半減するだろうが、田中イズナの傷ついた体にはかなりの一撃に感じるはずだ。
「こっちの番!!」
田中イズナの胸に、右ストレートをぶち込んだ。
「ぐぶっ……ふ……」
それは確実にヒットしたようで、口からは肺にたまっていたはずの空気が全て押し出さたことを、田中イズナの表情が物語っていた。
(ここだ!)
ここでラッシュを仕掛けるべき。そう直感した私は、左手の指を力強く丸め、アゴめがけて左アッパーを射出する。
しかし田中イズナもただではやられない。視界に映っていないはずの左アッパーに、顔を左に動かして対処してきたのだ。
私がさっき行ったように、田中イズナも直感で自分への攻撃を感じ取り、行動に移したのだろう。
その結果、私の左アッパーは空を切り、不発に終わった。
(まずい……)
私がそう思う理由はアッパー攻撃が空を切ったことにある。アッパー攻撃と言うのは強力で、うまく入れば一瞬で勝負を決められるメリットがある代わりに、避けられた後大きな隙を作ってしまうデメリットがある。
――――今、このように。
大きな隙を作ってしまった私が無傷でいられるはずもなく、さっきのお返しだと言わんばかりに、胸に右ストレートを叩き込まれてしまった。
「ご……ほっ……」
胸を叩かれた痛みとともに、肺から管を通って空気が逆流していく何とも言えない気持ち悪さを感じる。
「が……は……」
そして逆流した空気は遂に喉に到達し、ゲップのような形で体外に放出された。
ゲップのようなとは言ったが、ゲップをした後のつかえが取れた爽快感は無い。無理やり出された気持ち悪さ、不快感。そういったものだけが、目からにじみ出る涙とともに放出されるだけ。
普通なら膝をついて休憩したいところだが、戦場で、ましてや接近戦でそれは許されない行為である。
痛みに耐え、接近戦を再開しようとした時、残り時間はおおよそ5分を切ろうとしていた。