お遊び
(遊ぶように……動かした?)
田中イズナの言葉選びに、私は少しばかり意識を思考に集中させる。
言いたいことはわかるのだ。田中イズナの思考回路を読み取ることは当然ながらできないため、仮説になるが、私の中のオーラが切れるまで耐久したということなのだろう。
(理解はできても、納得はできませんけどね……)
まず大前提として、私には感覚的にまだオーラが残っていること。さらには自分の体の疲れを認識した途端、オーラが出づらくなってしまったこと。
この2つの疑問が解消されない限り、オーラが切れるまで耐久したことへの疑いは晴れない。
(私の知る限りでは、田中イズナに対象人物の精神状態まで弄る能力はない……私の感覚は間違いなく、オーラはまだ残っていますよと伝えているのに……)
「……理解できない……って顔ですね」
またしても私の感情が顔に出ていたらしく、喋りかけてもいないのに、田中イズナは言葉を1つ放ってきた。
それが的外れな発言ならよかったのだが、的を得ているのがなんともいやらしい。
「……そんな怪訝な顔をするってことは、あなたの体に起きている感覚のズレにも気づいてないっぽいですね」
「……ズレ?」
その一言を皮切りに、田中イズナはその憎たらしい口から、かつ自慢するような声色で言葉を綴り始めた。
「……浅間先輩は私に勝つため、プロモーション戦が始まる前、それもかなり早い段階で訓練を始めていました。それは私も途中からだけど把握していましたし、訓練によって得られるメリットは計り知れない」
「…………」
「……それも、私の兄が主導する訓練です。効果は自分1人でやるより絶大だったことでしょう」
(……兄?)
気になる言葉を言っていたが、それはさておき、言っていることは間違いではない。
――――もっとも、これからが本題だろうが。
「……しかし、その分生まれる感覚のズレも絶大だった」
「……感覚のズレ?」
「……成長度の差……知能と筋力が同時に育たないように、オーラと肉体も同時には育たない、と言うことですよ」
その瞬間ピシリと、自分の中の正解だと思っていたものが、砕ける感触がした。
それは何を隠そう。田中イズナの行っていた行動が本能的に理解できてしまったことを意味していた。
「浅間先輩……あなたは強くなった。それも急激に……前の先輩がてんで大したことなかったから、実際の強さはそうでもないですが……前と比べて、強くなりすぎてしまったんですよ……ですが」
――――その分、体とオーラの感覚がズレてしまった。
「わかりやすく言いましょうか。例えば、人の強さが知能、力、スピードの3つに分かれて数値化され、それぞれが100であった場合、訓練することによって上がる力の数値は……まぁ、例え話なんで10ぐらいにしておきましょうか」
田中イズナは指で数字を数えながら、わかりやすく説明し始める。
その姿はお世辞にも戦っているとは思えないほど隙だらけだった。
「ですが、それと同時にスピードと知能が10ずつ上がるわけではない。振り幅の差が存在する。それと一緒です。体の成長率とオーラの総量の上昇率が同じなわけがない。そのせいでズレる。体はまだまだオーラに余裕があると言っていても、実のところはギリギリ。もう後がなくなっていたんですよ」
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