面白いほどに
(は、入った……入った!! 面白いくらいに!!)
私は試合中にもかかわらず、あまりにも綺麗に入ったラッシュコンボに思わず感傷に浸ってしまっていた。
さっきのコンボ攻撃は訓練で磨いたものだったため、実戦では使用していない。なので人前で披露するのは今回が初めてである。
拳から伝わる肉を殴った感触。相手を吹っ飛ばしたことによる爽快感。それを見てどよめく観客たちの声。
「くうううぅ〜……」
全てが気持ちいい。快感。全くもって快感だ。
そして相手である田中イズナも、あれだけダメージをもらってしまえばただでは済まないはずだ。もはや戦闘不能になってもおかしくは――――
おかしくはない。そう考えた瞬間、田中イズナの体が激突し、砂煙が巻き上がった場所から剣が発射された。
「――っと!!」
ひとりでにこちらに向かって飛んでくる剣だったが、着弾まで約50センチといったところで何とか察知し、回避することができた。
(危ない……! と言うか、剣が飛んできたと言うことは……)
田中イズナはまだ戦闘が可能な状態にあると言うことだ。
危なかった。もしあのまま感傷に浸っていれば、剣は脳天に直撃し、戦闘不能どころか即死していた。
今は勝負中なのだ。こんなことでいちいち気持ちのスイッチをオフにしてはいられない。常にオンにしておかなければ、勝てるものも勝てなくなってしまう。
(よし……!)
私は気持ちを今一度引き締め、拳にまたオーラを充電し始める。
もちろん撃つのはオーラナックルではなくフラッシュナックルだ。オーラを節約するためにオーラナックルにしても良かったのだが、オーラナックルだと砂煙のせいで空気中に舞い上がっている砂にぶつかり、威力が下がってしまう可能性があるため、威力が下がらないフラッシュナックルを選択した。
しかし、そんな思惑は実を結ばず、田中イズナは砂煙の中から一気に浮上し、空高く舞い上がった。
「一体どうやって……!?」
私の記憶では、田中イズナには空を飛ぶ結界は存在していない。まさか透明になる結界と共に、空を飛ぶことができる新結界も開発していたのかと一瞬、そのような考えが頭をよぎるが、その疑問はすぐに解消されることになる。
(あれは……?)
空を飛んだ田中イズナの足裏には、剣が付着していた。いや、付着していたと言うより剣の刀身を足場にしていると言った方が正しいだろう。
おそらくだがあれは剣結界の応用。
自由自在に操れる剣にスノーボードのように乗ることで、剣と共に体も飛ばしているのだ。
おかげでフラッシュナックルは回避されてしまった。だが、頭や肩から滴る血を見るに、さすがにノーダメージでは済まなかったらしい。確実にダメージを与えている。
(攻めるなら今!!)
風向きがこちら側にある今こそ押し切る時。そう判断した私はオーラの力を足に込め、田中イズナに続き、空中へと飛び立った。