短気
ちょい短いです。
「何……? 能力が変わった……?」
俺はテレビに映る田中イズナの姿に目が吸い込まれた。
さっきまで透明になっては元の姿に戻り、透明になっては元の姿に戻りを繰り返していた田中イズナが透明にならず、その代わりに田中イズナ周辺の床から剣がいきなり生えてきたのだ。
しかも、その剣はまるで持ってくださいと言わんばかりに持ち手の部分が上になっており、剣は田中イズナが生み出したものだと言うのは一目瞭然だった。
能力の変化……もし田中イズナの対戦相手が俺なら、迷惑極まりない行動だっただろう。
(俺はどちらかと言うと真実を明確にしてから行動に移すタイプだし……その分時間が長びいてしまうからな……でも)
今の袖女からすれば、むしろ都合の良い行動だ。
(袖女はあの透明になる能力は初見だったっぽいし……)
最初の頃、袖女は透明になる能力を知っていると思っていた。
なのですぐさま透明になる能力を攻略しに行動を開始すると思っていたのだが、そんな俺の予想に反し、袖女がとった行動は真逆。攻略するために行動を開始するどころか、その場で立ち止まり、時間稼ぎを始めたのだ。
時間稼ぎをすることこそが、透明になる能力を攻略する方法なのかと1度は疑ったが、そのまま数分経過したところでその考えは消滅した。田中イズナの表情に疲れを感じなかったからである。
が、袖女はそれでも回避行動を続けた。
対戦相手に有効な手立てではないとわかっているのに、回避行動を続ける理由はたった1つしかない。
(攻略方法を考えるための時間を作るためしかない。つまり、袖女は透明になる能力の攻略方法を知らなかった……!!)
おそらくは新たに作られた田中イズナの新戦術だったのだろう。それなら考える時間をわざわざ作ったのにもうなずける。
しかし、田中イズナは新戦術を攻略しようとする袖女にしびれを切らし、また別の能力に切り替えた。
「早計な行動だな……」
プロモーション戦が始まる前の短い期間で新しいスキルの使い方や新戦術を創作することができるとは思えない。俺でも2つ作れるかどうか……それくらい難しいレベルの話だ。
なので、地面から剣を生やしたあの能力は袖女も確認している既存の能力だと考えられる。だとしたら、袖女は攻略法を用意しているはずだ。
「勝機は見えたぞ……袖女……!」
俺は組んでいた腕を解き、両肘を両膝につけて、顔の前で両手を合わせた。