過去
家族写真。それを聞いた時、私の頭には複数個の考えが浮かんでいた。
(はたして、これを受け取るべきか否か……)
普通の人間なら、裏側になっているこの写真を見たら、餌に群がるヒナ鳥のように、嬉々として写真をつかみ、表側を確認するため写真をひっくり返していたことだろう。
しかし、私は黒のクイーン。神奈川派閥のトップに立つ者として、目の前のものに何の疑いもなく飛びつくなんてことはしない。
田中イズナを問答無用で執務室に連れてきたのは……焦っていたから仕方がない。うん。
……いや、認めよう。正直、田中イズナを見つけた時は焦っていた。しかし、田中イズナが応急箱で治療を受けている数分のおかげで、ずいぶんと冷静になることができた。
約束しよう。もう二度とこのような失態は犯さないと。
そしてここは、さっきの失態でイメージダウンしてしまった私のイメージを取り戻すため……
「凛、確認なさい」
「はっ」
凛に開けさせるとしよう。
――――
私の邪な考えで、私の代わりに写真をチェックすることになった凛だが……さすが凛。私の言葉に何の疑問も抱かず、命令通りに写真をひっくり返し、写っている画像をチェックしてくれた。
「これは……!」
そこにあったのは紛れもなく、どこにでもある家族の集合写真。
画像の構図は、真ん中にまだまだ幼稚園児と思われる男の子と女の子がいて、それを夫婦が取り囲んでいる形だ。
しかし、これだけで田中伸太と田中イズナが血縁関係にあるとは言えない。しっかりと本人確認しなくては。
「凛、『証明式魚雷』をお願い」
「お任せを」
凛も証明式魚雷を使おうと思っていたのか、妙に素早い手際で証明式魚雷を手のひらから撃ち出す。
証明式魚雷は魚雷と言いながら、意外と小さく、小さな瓶位の大きさしかないが、先端部分にカメラのような機械が取り付けてある。構造はわからないが、おそらくその先端部分でこの写真の女の子が田中イズナかどうかを判別するのだろう。
そして、証明式魚雷は写真へと発射され着弾。先端部分が魚雷から切り離され、ガシャガシャと音を立て変形しつつ、写真にまとわりついていく。
そこから数秒経つと、鑑定が終わったのか、さっきまで変形していたのが嘘のように、魚雷の先端部分は光のモヤとなって消えていった。
「……終わりました」
「結果は?」
「照合したところ、写真の女の子は田中イズナ、その隣の男は田中伸太で確定しました。田中イズナの言っていたことは全て真実だと思われます」
「そう。ありがと」
証明式魚雷に誤りは無い。その証明式魚雷がこの写真に写っている人物が田中イズナだと断定したということは、田中イズナが持ってきていた写真は真実であり、それと同時に、田中イズナの兄宣言も真実だと言うことになる。
(なら……)
「ありがとう。あなたが信用に足る人物だと言うことは理解できたわ……で、これを見せたと言うことは、何か他に言いたいことがあると言うことよね」
私の問いに、田中イズナはコクリと頷き、言葉を発した。
「兄は……そんなに強くないんです」