特別
プロモーション戦のステージ。その観客席に座る観客たちは、あっけらかんとした表情で本戦が行われているステージの上を見つめていた。
「あははー! こっちこっち〜」
観客たちがあっけらかんとした表情で見つめるステージの上。そこでは、白のクイーンによる楽しげなダンスが繰り広げられていた。
「グッ……この……!」
しかし、このステージはダンスをするためのステージではない。1対1、真剣勝負をするためのステージだ。
対戦相手である黒のポーンの兵士は、当然のごとく、自分の戦いの場を荒らされたと感じ、怒りを含んだ表情で殴りにかかる。
「おっと! うまいうまい! その調子その調子〜」
肝心の白のクイーンはそんな攻撃など気にするようすなく、力を含んだ右拳をいとも簡単そうに掴み、拳の勢いを生かしてくるりと一回転。まるでワルツのように回ってみせた。
「このっ! くそっ!」
黒のポーンの兵士はそれでもあきらめず、懸命に拳を振るうが、白のクイーンには全く通用しない。どんなに変則的なパンチを入れようと、余裕を持って回避されてしまう。
今までのド派手な技同士のぶつかり合いとはうってかわり、かなり地味な格闘戦。この凄さの全てを理解することは観客たちには難しかったが、たった1つ、明確にわかったことがある。
「がんばれ〜! もうすぐ当たるかもよ?」
この小さな女の子は、頂点に君臨するために生まれてきた存在だと。
――――
目の前で行われている格闘戦に、観客たちも黙りながらそれを見つめている。ついさっきまで、ド派手なだけの技に大騒ぎしていたのが嘘だったかのように静かだ。
(信じられない……いや、これを見れば当然か)
ステージ上で行われているダンスのような格闘戦。この現状を表面的に考えると、白のクイーンが黒のポーンの兵士を圧倒しているからすごいと言う考え方ができるが、本当にすごいのはそこではない。
何よりも1番すごいのは、そのダンスのような戦い方を、スキルなしで行っていることだ。
逆に黒のポーンの兵士は肉弾戦向けのスキルらしく、なかなかのスピードで動き回り、なんとか白のクイーンに一撃入れようとしている。
スキルを使っている相手をスキルなしで、しかも武器も何も持たず、己の身1つでここまで圧倒することがどれほど難しいか、東一時代の経験で、俺はよく知っている。
(……このままだと、スキルを見せそうもないな)
相手である黒のポーンの兵士に、せめて白のクイーンのスキルを出させるぐらいは善戦してくれと願いながら、俺はテレビ画面を見つめ続けた。