白のクイーンの戦い
神奈川兵士の正真正銘、ナンバーワン。白のクイーン。
その姿がステージ上にあらわになった時、俺は時が止まったかのような錯覚を覚えた。
「……あ?」
夢にも思わなかっ白のクイーンの姿。もともと、白のクイーンは他のチェス隊メンバーとは違い、なかなかメディアに姿を表さない。あの同盟会議に参加した時も、俺が見なかっただけかもしれないが、白のクイーンらしき姿は黙認できなかったほどだ。
いや……それは問題ではない。問題なのはその姿。容姿が問題だった。
だってその姿は……まるで……まるで……
『めったに表舞台に姿を表さないその存在! ミステリアスな雰囲気をまとったこの方こそ!! 白のクイーン、硬城蒼華その人なのです!!』
あの、桃鈴才華のようだったから。
――――
「うぐっ!! ……はぁ……はぁ……」
いきなりのサプライズに、俺の脳は急激に沸騰し、体が白のクイーンを求めて躍動し始める。
両手で胸を抱きしめながら、俺は白のクイーンを殺そうとする体を必死に抑える。そのせいで、端から見れば白のクイーンを見て興奮する変態みたいになってしまった。
『よろしくねー!』
少しデジャヴを感じる挨拶の仕方にも、桃鈴才華と似通った部分をひしひしと感じる。
桃鈴才華に似た部分はそれだけではない。仕草や動作、年齢に似つかない少し低めで出るところが出た体つきも、その全てが桃鈴才華に似ている。似ているというか一緒だ。クリソツ。
唯一違う点といえば、髪の毛の色だけだ。
桃鈴才華が青みがかった黒なのに対し、硬城蒼華は金髪。相違点がマジでそれだけしかない。もしその違いがなければ、桃鈴才華だと確信して思ってしまうレベルだ。
「ぐ……!!」
(本当なら……俺だって……)
本当なら、俺だってこの体の疼きに逆らわず、今すぐに白のクイーンのもとに行きたい。行ってそのきれいな体を、目を、唇を、髪を、四肢を、思うがままに切断してやりたい。
だが、今はプロモーション戦の真っ最中。こんなタイミングで乱入してしまえば、チェス隊並びに他の神奈川兵士からの総攻撃を受けることは間違いない。
(我慢……我慢だ……)
大丈夫。きっといつか、胸の中に封じ込めた怒りを解き放てる時がやってくる。そしてそれはあんな偽物にではない。正真正銘、俺の人生を壊したあいつに、犯した罪の全てを贖罪させるのだ。
そうだ。だから、こんなの見なくても――――
「……ま、まぁ、見る位ならいいか……」
もしかしたら戦うことになるかもしれないからな。うん。