視聴者
対戦カードが半透明の正方形に表示された後、それらがどの順番で行われるのかの発表が司会者の口から放たれた。
その結果、袖女の試合は第7試合。ちょうど中間あたりになった。
(第7試合……まぁ悪くない試合順だ)
本当なら第9か第10試合の方が、より気持ちを落ち着かせるのにちょうど良い時間帯だったが、気持ちを落ち着かせる前に試合に立たされれる前半の試合や、長すぎる待機時間のせいで一度落ち着かせた気持ちが再び膨らんでくる危険性のある後半の試合よりかははるかにマシなので、全然オッケーな範囲内だ。
「むしろ問題なのは三つ編み女の方だな……」
スキルも何もわからないため、俺の方からでは分析のしようがない。せめて駒の地位さえわかれば話は変わってくるのだが……
「……ま、ごちゃごちゃやってても仕方ないか」
(俺が知らなくても、袖女なら三つ編み女の詳細を知っているはず……何とかなるだろ)
アドバイスの1つもしてやれる立場ではなくなった俺がどうこう分析していても仕方がない。今まで色々と指導してやった立場ではあるが、今回は一視聴者として、戦いを楽しむ立場に立たせてもらうとしよう。
「で、第1試合は……」
『第1試合!! 黒のクイーン、斉藤美代VS白のビショップ、王馬沙月!!』
「おお……!!」
いきなりの豪華な対戦カードに、思わず驚嘆の声を漏らした。
――――
「……あなたと戦うのは久しぶりね」
「ええ……全くですわ」
黒のクイーン、斉藤美代に投げかけられた言葉に対して、わたくしは唇を震わせながら言葉を返す。
「……ッ!?」
このわたくしが唇を震わせてしまっている。その事実を理解するのに、そこまで時間はかからなかった。
(そんな……このわたくしが……緊張しているというの?)
本来、緊張とは可憐なるわたくしには似合わないもの。わたくしは常に絶対の自信を備え、他者を上から見下していくことを、自分自身に課していた。
いわゆる『自分ルール』と言うやつである。
それは相手がどんな人間でも、人間でなくとも変わらない。
たとえそれが格上の相手であろうと、それは変わらないはずだった。
(……斉藤様と……硬城蒼華を……除いては……!!)
初めて斉藤様と戦ったのは、チェス隊になってすぐのことだった。
当時のわたくしは、いきなり白のポーンになれた特別な人間だった。自信と欲望に満ち溢れ、まるで世界の中心に立っているような感覚に体をふるわせていた。もし負けなしで突き進んでいれば、今以上に傲慢に成長していたことだろう。
そんなわたくしを……最初に砕いたのが、紛れもない黒のクイーンその人だった。
対戦内容はあまりにもショッキングすぎて覚えていない。そもそも対戦と呼べたかどうかも怪しいレベルだ。
(だから……今日、それを払拭しますわ)
そうすれば、わたくしは真の意味で前に進めるはずだから。