疑惑
(相手は……田中イズナか)
妙に豪華な飾り付けを施された特設席に座りながら、私は抽選結果について思案していた。
(あまりにも繋がりすぎる……)
彼と離れて少し経ち、関係者専用ドアを開け、ステージ内部に行くまでの通路を歩いていた時、プロモーション戦まではまだまだ時間があったのにもかかわらず、あの子、田中イズナと遭遇した。
そして今回は、プロモーション戦、本戦の対戦相手として選ばれている。
(まるであの時、わざと早めに来て、抽選に細工をしていたように……)
しかし、それは現実的ではない。なぜなら、プロモーション戦の本戦までは、神奈川本部に所属している研究員が最後の最後まで調整を行っており、付け入る隙はどこにもない。それに加え、抽選機調整室の前には、チェス隊メンバーほどではないにしろ、かなりレベルの高い神奈川兵士が数人配置されている。
もちろんその兵士たちにもプロモーション戦があるので、直前ギリギリまでは守ることができないのだが、私が関係者専用の通路を歩いていたのは、プロモーション戦よりも数時間前の話。なら抽選機調整室の前には、間違いなく神奈川兵士が数人ほど存在していたはずだ。
(そしてそれはチェス隊メンバー全員が知っていること……田中イズナが知らないはずはない)
抽選機に細工するために侵入していたと仮定した場合、入ってきた人物がチェス隊ではない神奈川兵士ならいざ知らず、そのことをすでに知っているはずの田中イズナが、神奈川兵士数人が警備しているとわかっている時間帯に来るのは違和感が残る。
(……わからない。どうやっても無理だ……)
田中イズナが細工をしたと考えた場合、上がる可能性は、単純に警備員や研究員を無理矢理気絶させ、その間に細工をした可能性だ。
しかし、研究員はともかく、警備員は神奈川兵士の中でも上澄みの実力者。いくら田中イズナとは言え、スキルの使用は不可避。戦いの反動で相当な音が出るはずだ。なのでこの可能性はない。
(ぐぐ……)
ない。ない。どう考えても田中イズナ1人では、抽選機に細工をする方法が思い浮かばない。
そもそも、プロモーション戦で使われる抽選機は、私のような機械に精通していない人間でもはっきりとわかるほど、見た目から精巧な作りをしている。とてもじゃないが、機械初心者の人間にいじくれるほど簡単な作りとは思えない。
(田中イズナは機械系統にも精通しているのか? あまり知られていないだけで、考えられないわけではない……!)
それから、どうやったら田中イズナが抽選機をいじくれるのか考え続けていった。
私が思考の海から抜け出すのは、そこから10分後の話である。