本戦が始まる
「はむ……むぐ……もく……」
あの後、俺は誰にも取られない個室を入手できたことを利用して、本戦までの10分休憩を使い、ステージ外にある出店で大量に食べ物を購入した。
「むぐ……」
正直、観客席に座っていた時から、何か見ながらつまむものが欲しいなと思っていたので、この個室はブラックにとってだけじゃなく、この俺にとっても好都合だった。
「ワンワン!!」
「あー、駄目だ。このたこ焼きは俺のだ」
ちなみにブラックは雑音が聞こえなくなったことと、ぐったりしてから時間が経過したことが重なり、キャンキャンと鳴きながら俺の手にあるたこ焼きを欲しがるまでに回復した。これが個室効果か。
個室の恐ろしさを体感しつつ、設置されたテレビを見ると、そのテレビ画面には、ちょうど本戦に出場するチェス隊以外の一般兵士枠を発表しているところだった。
『……になります! 残りの1枠は……な!? はっ……!? こ、これは……』
関係者の誰かと話しているのか、スピーカーから乗って聞こえてきていた司会者の声が急に聞こえなくなった。
『……っ! 失礼しました皆さん! で、最後の1枠ですが……』
そこから数十秒後、再び司会者の声がスピーカーから聞こえてきた。
『なんと! プロモーション戦初! 最後の1枠の兵士は、黒のキングと戦ってもらいます!』
まさかまさかのサプライズに、ステージ全体が嬉しさと喜びが含まれた大歓声に包まれる。この個室にも、防音によって直接聞こえはしないが、テレビに付いているスピーカーから、音量は低いながらも熱気を感じることができた。
「……ふぇー」
しかし、俺の心は平常心。何なら出店でたこ焼きを購入した時の方がテンションが高かった位だ。
その理由は勝敗の結果が見えすぎているからだ。長いこと訓練を共にしてきたからこそわかる。あの黒のキングが俺以外の、しかもチェス隊でもない一般兵士に負けるわけがない。男兵士だろうが女兵士だろうが、瞬きする暇もなく秒殺してしまうことだろう。
なので勝つか負けるか、そのハラハラ感がない。ゆえにテンションが上がらなかった。
『そしてその1枠に入ることができる幸運な兵士は……今検討中!? は!?』
(へー……今までにないことで内部もごちゃついてるのかな……? ま、別に良いや)
俺は爪楊枝でたこ焼きを1つ刺し、口の中に放り込んだ。