引きずり下ろす
「…………」
僕が放った引退発言。その言葉は伸太にとって予想外だったらしく、こちらを見つめて動かなくなってしまった。
「このまま何もできないのなら……僕たちはやめた方がいい」
しかし、それは僕の発言を止める理由にはならず、ゆっくりと引退に対する思いを述べていく。
「キングは本来……神奈川派閥を導くために作られた地位だ」
「…………」
「それができないキングは必要ない」
キングは別の言い方をすれば王だ。王とは頂点。神奈川派閥を統べる存在だ。歴代のキングは最後の最後まで神奈川派閥の王として、神奈川派閥の兵士たちだけでなく、戦わない民間人すらも導いてきた。
しかし、今はどうだ。派閥のトップである大臣たちはまるで機能せず、兵士たちの現状をろくに把握していない。する気がない。そして僕たちキングはかつてのような快活さを失い、ある程度の範囲でなら意見を言える立場に踏みとどまってはいるものの、それも時間の問題だ。
真に神奈川派閥のためを思うなら、潔くその席を次に託すべきなのだ。
そして、その空席に座るべき人物、それは……
「そして、その席は――――」
お前に……託す。そう言おうと口を開けて……
「うるせぇよ」
その口は、伸太の手によって、いともたやすく止められた。
――――
「……何をする?」
目の前の、自分の弟子とも言えるその存在に、次の言葉を防がれたことに、僕は大きな疑問を感じていた。
別に田中伸太にとって都合の悪い話をしようとしているわけではない。むしろ、伸太にとってはとても嬉しい話だ。何せ何のリスクも負わず、前キングからの推薦でキングになれるのだ。それはキングになることで手に入れられるとある特権も相まって、誰しもが両手を挙げて喜ぶはずなのに――
「……俺はな、キングになるために神奈川派閥に来たわけじゃないんだよ」
「……は?」
「俺はここに――――」
「王になるために来たんだ」
頭にガツンと、殴られたような衝撃が走った。
「ただの、役職のキングじゃ駄目なんだ。本当の王に……全てを越えてやっと、真の意味での王になれるんだよ」
最初からわかっていた。わかっていたからこそ訓練したのだが、ここまで……
「後はあんたを超えるだけなんだ。だからあんたは引退するんじゃなくて――」
素質があるとは、思わなかった。
「――俺に引きずり下ろされるんだ」
伸太は大きく口を歪めた。
すごい書いてます