予選開始
最初は伸太視点です〜
出店を巡り切り、ちょうど2時間経った頃……ついに準備は整った。
『さぁ! 皆さん!! 準備はいいですかー!?』
「「「「ワアアアアァァァァァァ!!!!」」」」
ステージ上の至るところに設置されているマイクスピーカーから、司会者の掛け声が乗り移り、ステージ全体に響き渡る。
そしてそれに呼応するように、ステージ上の観客席にいる観客から、司会者のように機械に乗った音声ではなく、正真正銘人間の口から放たれる生声が、ステージ全体を包み込む。
(うるっさ……)
もし俺がこのイベントを楽しみに待っていたのならば、この大歓声は俺にとって心地よいものになっていたことだろう。
ただ現実は違う。ここに来た目的が袖女のプロモーション戦を見守ることと出店で飯を食いまくることであるため、この大歓声も雑音にしか聞こえない。それにもう出店で飯を食いまくる目的は達成しているため、尚のこと不快だった。
「ワウ……」
ブラックもこの大歓声を雑音に感じたらしく、体を震わせて怖がっていた。
無論、この程度で怖がってもらっては、せっかくブラックを訓練させた意味がなくなるため、これしきのことで甘やかしたりはしない。
そんなことを考えていると、司会者は歓声が落ち着いたタイミングを見計らい、自分の声をマイクに乗せ、スピーカーから大音量で声を解き放った。
『それでは!! プロモーション戦んん〜……!!!! 開幕ウウゥゥゥゥー!!!!』
「「「「ワアアアアァァァァァァ!!!!」」」」
司会者の声と共に、さっきと同じ現象が繰り返されると、プロモーション戦の開幕を告げる花火が、天空に大きく花開いた。
――――
『ではまず第一種目!! スキルなら何でもあり!? スーパードッチボールスタートだああああ!!!!』
開幕の合図から少し時間が経ち、チェス隊以外の神奈川兵士たちが隊服姿でステージに入った後、プロモーション戦本戦へ進む兵士を決めるための予選第一種目、スーパードッヂボールが始まった。
ルールは普通のドッチボールと同様、2チームに分かれ、内野と外野の人を決めてボールをぶつけ合うものだ。
キャッチしたらセーフ。自分の体に当たって落ちたらアウト。外野の選手が相手の内野の選手にボールを当てたら復活することができる。
普通のドッチボールとは違う特別ルールとして、スキルが使用可能である。しかし、使用できる範囲はコート内のみで、それ以上の範囲に影響を及ぼすスキルを使用した場合、スキル使用者は即刻外野へ移動するという処分を受ける。
(暇だし……見ていくか)
本来なら見なくても別に問題は無いのだが、せっかく取れた席を外している間に取られる可能性がある。
取られるのはなんだか癪なので、袖女のプロモーション戦までの暇つぶしとして見物していくことに決めた。
そうして始まったスーパードッチボールだが、時間が経つにつれ、それは競技性があるとは言えないものに変化していった。
(うわぁ……ひっど)
言わなくてもわかることだが、ドッチボールは内野と外野で協調性がないと成り立たないチームゲーだ。
しかし、ステージのど真ん中で行われているスーパードッチボールは、元のドッチボールの肝であるチームゲーの部分は全く見受けられなかった。
(ところかまわずスキルを使いすぎだろ……ひどいやつはずっとスキル出ずっぱりだし……)
これを聞いた時、俺はスキルの使い所が勝負の分かれ目だと思っていた。だが、いざスーパードッチボールがスタートすると、そこにあったのは、競技性の高いドッチボールではなく、ただ派手にスキルを使っているだけの演劇だった。
それも完成度は小学生並み。見ていたらこちらの目が毒されそうだ。
そのくせ、観客からの評判は良さげで、兵士たちがど派手にスキルを使うだけで、神奈川派閥の未来は安泰だとか、あいつは本戦に進むなとか、的外れなことをくっちゃべっていた。
(……神奈川派閥の未来は暗いねぇ〜)
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