何を……
朝ご飯食べない派になってきた
田中伸太が出店をめぐりまくり、むしゃむしゃと食べ物にパクついている頃……
私、浅間ひよりは対戦候補の1人である田中イズナと廊下でばったり出会っていた。
「どうも……田中イズナ」
「おはようございます。先輩!」
(……あ?)
「これからどこに行くんですか? まだチェス隊の皆さんは待合室に来ていませんよ?」
「あ? いや……たいして予定もないので、早めに持ち場についておこうと思いまして」
「そうでしたか! でも、プロモーション戦までまだ2時間以上ありますし……あっ! 一緒に出店回りでもどうですか?」
(こいつ……最初と態度が……)
私の知る田中イズナは、元気で明るい快活少女で、誰にでも明るく接するクラスで人気の女の子といったイメージだった。
しかしどうだ。田中イズナは最初、私を注意深く観察するように、数段、言葉のトーンが落ちていた。まるでこちらを警戒するかのように、疑義の視線を向けながら。
ただ、次の言葉からそれを修正するかのように、私が知る田中イズナの声のトーンに戻った。
「……いえ、ほぼ初対面の相手と一緒に出店を回れるほど、私は肝が座っておりませんので」
「そうですか! 残念です……じゃあ、私はそろそろ失礼します! 後、私のことは名前だけで呼んで構いませんよ! それじゃあ!」
そしてそのテンションのまま、最初の不気味な感じは鳴りを潜め、私が歩いてきた廊下へと姿をくらませていった。
「一体何が……ん?」
田中イズナの態度に不自然な違和感を感じていた私だったが、田中イズナが私の後ろの廊下に消えてから、もう一つ、不自然なことに気がついた。
(……何で、田中イズナがこんな時間にここへ?)
田中イズナは持ち前のコミニケーション能力と、明るい雰囲気でごまかしてはいるものの、チェス隊からすれば、まだまだ新参者の領域を出ない。順位的にも私と同じく、最下層のポーンである。
プロモーション戦を準備する役職についたのならまだわかるが、先に言ったように、神奈川派閥では新参者かつ、最下層のポーンである田中イズナが上層部にプロモーション戦という大事な場を管理するのを許してもらえるとは到底思えない。というか無理だ。
(だったらなぜこんなに早く……?)
私のように心を落ち着かせたいからかとも考えたが、彼女のことだし、誰かから出店を回ろうと誘われている可能性が高い。それに、そもそもプロモーション戦の準備を本当に任されているのなら、プロモーション戦2時間前にここを出るのも変な話だ。
「何か狙いが……?」
(杞憂だと言いんですが……)
ここで考えても何もわからないため、私は一旦思考を放棄し、自分の待合室へと足を進めた。