周り
「おお……! でかいな、ここは……!」
「プロモーション戦専用の特設ステージですからね。めちゃめちゃでかいですよ」
「ワウーン……」
俺は今、袖女とブラックと共に、プロモーション戦専用の特設ステージへ足を運んでいた。ちなみにブラックは迷子にならないよう、肩に乗っかっている。本当は連れて行きたくなかったのだが、この1週間ほど、外に出させてやる機会が黒のキングとの訓練の時ぐらいしかなく、ブラック本人も退屈そうだったため、気分転換も兼ねて連れて行くことになった。
それはそうとして、俺は目を動かし、特設ステージを今一度見渡す。
さっきも口に出したが、年に一回、プロモーション戦でしか使われないステージにもかかわらず、ものすごい大きさだ。
作りはプロモーション戦用のコートを中心に、観客席がドーム状に設置されている。東京ドームと似たような作りだが、俺の見た東京ドームよりもさらに大きい。
そんな巨大なステージの観客席に、観客たちが所狭しと埋め尽くされている。それを絶景と呼ばずしてなんと呼ぶのか、それ以外の言い方を俺は知らない。
ブラックも見たことがない光景に心が踊っているのか、尻尾をぶんぶんと振り回している。どうやら気分転換という目的は達成できたようだ。
「……では、私はプロモーション戦の準備があるので関係者室に行きます。あなたは観客席のどこかにでも座って待っていて下さい」
「おう。勝てよー」
それだけ行った後、袖女は俺たちとはぐれ、人ごみの中に消えていった。
袖女が視界から消えてなくなるのを確認すると……
「……さてと! 俺たちは出店巡りで飯を食いまくるとするか!」
「ワン!!」
当然、観客席で待つわけもなく、俺とブラックはステージを出て、外にある出店巡りを始めた。
――――
私、浅間ひよりは彼と別れた後、観客席と外をつなぐ通路に設置してある関係者専用のドアから、チェス隊専用の待合室につながる関係者用通路を歩いていた。
「ふーっ……」
(いけない……まだ始まってすらいないのに……)
プロモーション戦がまだ始まっていないにもかかわらず、心臓の動悸が収まらない。
(大丈夫。私はあの海星さんに勝ったんだ……ポーンなら勝てる。訓練を思いだせ……)
私はポーンの中でもぶっちぎりで最下位なのだ。この戦いで一気に上がろうなんでがめつい願いは持たない。少しでいい。たった少し、順位が上がるだけで上々なのだ。
(だから……ん?)
そう自分に言い聞かせていると、向かい側の廊下からコツコツと足音を響かせ、誰かがこちら側に近づいてきた。
その誰かは、足音が大きくなるにつれ、その姿があらわになっていった。
「あなたは……」
それは彼が神奈川派閥に来る以前、神奈川派閥で最も注目を浴びていた人物。私から最も遠く、同じチェス隊メンバーの1人。
「どうも。今日はよろしくお願いします」
「……はぁ」
田中イズナが、私の目の前に現れた。
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