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見通し

 昼ですよ〜

「……ふぅ」


 模擬戦に敗北してから、俺は訓練所のベンチに黒のキングとともに座りこみ、訓練所内にある自販機から購入したスポーツドリンクを口に含み、喉の渇きを潤していた。


(……結局、一発当てることすらできなかったか……)


「はぁ……」


「ワン!!」


 俺と黒のキングの戦いを見ていたブラックが、口にスポーツドリンクを加えながら近づいてきた。


「ああ……ブラック……ありがとう。もう大丈夫だ」


 俺はスポーツドリンクを受け取ると、ブラックの頭をくしゃくしゃと撫でる。


 正直な話、クイーンまでの女性にしかなれないチェス隊の階級はともかく、もうほとんど表舞台に出ておらず、半分引退状態のキングなら、何とか勝てると踏んでいた。


 理由として、1番活躍していた戦争全盛期の時に上げた実績は確かに人間のものと思えないほど化け物じみたものだが、それはあくまでキングの2人が若かった頃の話だったことが挙げられる。


 若かったいた時期から計算して、かなりの老人になっているのはわかっていたし、もう長いこと戦争の舞台には立っていないことから、勘も鈍っていることは確定していた。


 苦戦する可能性はあったが、それでも勝てると思っていたのだ。


(それがこのザマだ……)


 満を持して、いざ蓋を開けてみれば、そこにいたのは年相応の強さを持った老人ではなく、歳と反比例した強さを持った老兵だった。


 今となってはもう遅いが、もし過去に戻れるのなら、過去の俺に、もっとしっかりと準備してから神奈川派閥に行けと言ってやりたい気分だ。


 そんなことを考えながらスポーツドリンクを飲んでいると、俺が落ち込んでいると思ったのか、黒のキングが話しかけてきた。


「……そこまで落ち込むな。僕が指導した中ではお前は間違いなくトップの成長率だ。それに最後の石と地面へと攻撃はよかった。正直言って驚いたぞ」


「……そうか」


 確かに2人のキングとの戦いは、間違いなく俺を成長させた。だが、肝心の2人のキングに肉薄できるほどではない。


(……まぁ、プロモーション戦が終わってからもまだ時間はあるし、少しずつ差を縮めていけばいいか)


「そろそろ俺も帰るとするよ」


 既に時刻は4時を回っている。帰るのにはちょうどいい時間だ。


「そうか……あ、ちょっと待て」


 俺が家に帰ろうとすると、黒のキングがそれを止めてきた。


 帰ろうとしているところを止めたのは初めて会った時以来なので、何かあったのかと俺は疑問の心を抱く。


「どうした? 何かあったのか?」


 そう聞くと、黒のキングは俺の疑問に返答することなく、急に体に触れ、まさぐってきた。


「ちょ!? おい!!」


(まさかこいつ……そっちの気があるのか!?)


 急に男に体を弄られ、東京派閥で感じた恐怖と同じものが体中に駆け巡るが、黒のキングはその口元を歪めることなく、神妙な顔で俺の体に触れていた。


「いや、少し……ううん? やはり……おい。少し痛むぞ」


「……え? ちょ、何……「オラっ!!」――ぎゃぼっ!?」


 黒のキングはぼそぼそとつぶやいた後、俺の了承の返事を待たず、みぞおちに向かって人差し指と中指を突き刺してきた。


「げほっ……ごほっ……何すんだテメェ!!」


「ワン!? グルルルル……!!」


 いきなりみぞおちに指をぶち込まれた俺は、当然なぜこんなことをしたのか黒のキングに問いかけた。


 ブラックも急な一撃に動揺したのか、黒のキングに対して牙を剥き出しにしながら威嚇する。


「変な体の鍛え方をしていたからな。少しツボをついてやった。うまくいけば明日、面白いことになるぞ」


「はぁ……」


 黒のキングの言っていることがイマイチよくわからず、腑抜けたような返事をしてしまう。


「後……名前を教えといてやる……丸山まるやま大吾だいごだ。よく覚えとけ」


 それを最後に、黒のキングの姿は跡形もなく消え去った。


「……いきなりだなぁ」


「クゥン?」




 そして……ついにその日を迎える。




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