対策法
全てのスキルを結集させ、地面に向かって叩き込んだ拳は、拳を中心に大きなヒビを練習所一帯に作り、音を立てて地面を大きく歪ませることに成功した。
(よし! うまいこと3つのスキルを抑えれた……! 練習所の地面一帯にちょうどよくヒビを入れることにはひとまず成功だな!)
はっきり言って、スキルを調整しつつ、自分が発揮したい理想のものへと威力を抑えるのは困難だと思っていたのだが、偶然か必然か、うまくいってくれたようだ。
「ぐおっ!?」
そんなことを考えていると、どこかから急に何かに驚いたような声が聞こえた。
聞こえた方向へと目を向けると、そこには黒のキングがひび割れた地面に足を取られ、尻餅をついてしまっていた。
(今だ!)
俺はそのチャンスを逃さず、今度こそ反射を足の裏に使い、一気に加速し尻餅をついた黒のキングに拳を叩き込もうとする。
だが、その拳に込めた願いは届くことなく、拳はお目当てである悪を叩く音ではなく、空を切る音を奏でるだけで、確かな手ごたえを感じることはできなかった。
「っ! あの体制ですら瞬間移動を――」
「動きは悪くない……むしろ、今までで1番良かった。だが、やっと生まれた念願のチャンスに気持ちが切れてしまった」
後ろから声が聞こえる。俺はそれにとっさに反応し、頭を後ろにグリンと回してしまった。
「駄目だな。後ろから声が聞こえてからこちらを振り向くのでは遅すぎる。相手に大きな隙を与えてしまうぞ」
そして俺は――――
(ああ……くそっ)
……その日も、俺は黒のキングに傷一つつけることができないまま、プロモーション戦前最終日を終えた。