すごい
とにかくすんごい
頭の中にある豆腐のような柔らかい脳が、内側からトロリと溶けていく感覚がする。今まで何度も袖女には脳を思考停止にされてきたが、こんなにもゆっくりと自分が何も考えていないと自覚させてくれるような気分にさせてくれたのは、袖女以外で見ても初めてだ。
「よ〜し……よ〜し……」
(な、なんだ……? この感覚は……)
さっきまで昼と変わらないコンディションだったのに、今は腕を上げることすら気怠く感じる。頭をこの膝から持ち上げることなどもってのほかだ。
(女に甘やかされる猫ってこんな気分なのかな……)
猫だけではない。犬や鳥、果てはハムスターまで、人間に買われているあらゆる生き物が、なぜあそこまで人肌に触れたがるのか何となくわかった気がする。
病気の時に感じるような、気分が悪くなる気怠さではない。起き上がったら起き上がったで、気分が悪くなるわけでは無いことはわかるのだが、この状態が心地よすぎて起き上がりたくない。
例えるなら……そうだな……
(尿意は感じるからトイレに行きたいけど、それすらもめんどくて、いつになってもそこから動かないあの感じに近い……)
女の膝に頭を預けながら思うには最悪の例えだが、本当にそうなのだから仕方がない。
そして、当の袖女はというと……
「ふんふふ〜ん」
上機嫌そうに鼻を鳴らしながら、俺の頭を片手で撫でくりまわしていた。
(妙にニヤついてやがるな)
心なしか、試合に勝った時よりもうれしそうにしており、目も笑っているように思えた。何をニヤついてるんだこいつはと思ったが、こちらとしても嫌な顔をされながら膝枕されるよりかは、こうやって前向きな表情で膝枕してくれる方が気分が良いので気にしないことにしよう。
「ど〜ですか? 気持ちいですかぁ〜?」
「……うん、まぁ」
夜になったことによる眠気か、袖女が猫なで声で呼びかけてくるおかげで、俺の返答が初めてカードゲームの大会に出た中学生みたいな感じになってしまった。
何を恥ずかしがっているんだ俺は。今更この程度のことで恥ずかしがることなど何一つないと言うのに。
「よ〜しよ〜し……」
やがて、目が重力に従って重くなる。それに逆らう理由もないので、俺はそれに身を委ね、ゆっくりと目を閉じた。
「おやすみなさい……」
その言葉が聞こえたの最後に、俺の意識は闇へと沈んだ。