夢が始まる
肩が凝る季節ですね。
(……なんだと?)
休もうとしてソファから立ち上がろうとしたその時、袖女が発した言葉と行動は、俺を心を動かすのに十分な破壊力を備えていた。
「どうぞって……」
「え? いや、だから……ほら、頭乗っけてください? じゃないと寝れないでしょ」
そう言うと、袖女は今一度自分自身の膝をポンポンと叩き、そこに頭を乗せろと催促してくる。その瞬間、頭の中がショートしたらしく、袖女が3割増で可愛く見えた。
(……幻覚か?)
俺は指で腕の皮をつねり、これが夢かどうかチェックする。
(……痛い)
腕の皮からはちゃんと痛覚を感じるし、一旦目を閉じてから開いても、知らない天井が視界に映らない。ソファの上で膝を差し出す袖女の姿が映ったままだ。
「ほら、来てください」
「……それ、昼の時と同じレベルのことだぞ?」
普段の袖女なら、いや、普通の女なら男にこんなことは滅多にしないはずだ。昼の時と同じく、顔を赤くして見るなと連呼してきたりするはず。
「その場のノリですよ。ノリ」
「……の、ノリ?」
「そうです。ノリノリ。女の子は意外とノリでどうにかできるもんなんですよ……あ、訓練に付き合ってくれたお礼も兼ねてですよ?」
「そうなのか……」
(まじで? 女って結構イケイケ精神でやってるのか?)
まさかの女の実態に少しショックを受ける。
「…………」
「……何渋ってるんですか? 自分から女性の部屋に寝泊まりさせてくれって言った貴方が……」
「いや、そうはいってもだな……」
あの時は寝泊まりする場所を探すのに必死だったのに加え、別にボディータッチも何も考えておらず、風呂を覗くとかの下心もなかったため、あの時は簡単に実行に移せた。
しかし、今回ばかりは正真正銘のボディータッチ。その中でもASMRやシチュエーションボイスなら鉄板と言っていい膝枕という夢のような行為。
人によってはかなわない夢になってしまう可能性もあるその行為を、あまつさえ相手側から誘いに来るなど、妄想してもしきれないことだった。
それが目の前で行われているのだ。
さすがの俺もたじろいでしまうのは仕方がないのだ。
「……あーもう! じれったい! ほら、頭出す!」
しかし、そんな俺の心情を別の人間である袖女が知れる訳もなく、さっきからぐずぐずしている俺に嫌気が刺したのか、頭のこめかみの部分を両手で掴み、無理矢理動かして……
「……っ!?」
「はい。リラックスして……」
俺の頭は、袖女の膝にダイブした。
その瞬間。
(ふおうわああああああああぁぁぁぁああぁぁ!!!!??)
脳がトロリと蕩けて、水のようになるのを感じた。