後は待って、休む
「ふー……」
時刻は夜9時を回り、外は深い暗闇に包まれている。
そんな中、お風呂に入って俺は、ソファに座って炭酸ジュースに口をつけていた。
(……結局、カウンター戦法も黒のキング……師匠には通用しなかった)
カウンターしようにも、そもそも黒のキングのスピードが速すぎて擦りもしなかった。
ちなみに、師匠呼びはなんだか気恥ずかしかったので、周りに人がいる場合のみ、師匠と呼ぶことにした。
(いや、今はそんなことよりも……)
袖女猫耳事件があった後、袖女はあの事件がまるでなかったかのように、いつも通りのペースで俺に接し始めた。
俺がその話を切り出しても……
「な、なんの話でしょうかー!? 私にはわかりませんー!」
……とか言ってはぐらかしてくれるあたり、絶対に触れさせない姿勢を感じる。
正直、袖女の動揺した顔を見るのはとても愉悦を感じるので、袖女猫耳事件はぜひ掘り返していじくりまくりたいところだったが、あの後はすぐに民間訓練所に行かねばならなかったので、掘り返す時間がなく、しぶしぶ昼ご飯を急いで食べ、部屋を出た。
そして肝心の黒のキングである師匠との訓練だが、白のキングであるおじいさんの時と同様、いまだに一撃も攻撃が入ってはいない。
あの人間の欲望の全てをごった煮にしたような威圧感に、相変わらず点でしか読み取ることができない移動。それに加えて、おじいさんとは違い、老体にしてはかなりアグレッシブに動いてくる。
(受け身になったら連打を受けちまう……ただだからといって無理矢理前に出るのは……)
手にある炭酸ジュースを飲みながら、どうやって一撃加えようか考えていると……
「横、失礼しますよ……」
「お、猫耳袖女じゃん」
「次その名前で読んだらぶん殴りますよ」
「おーおー怖い怖い」
まだテレビ番組をつけてボーッとしているわけでもないのに、風呂に入ってパジャマ姿になった袖女が隣に座ってしなだれかかってきた。
悪い気はしないのでもちろん嫌がりはしない。眼福眼福。
「……なんか悩んでるんですかー?」
すると、隣にもたれかかった袖女が悩んでいることを察したのか、俺だけに聞こえるような声で話しかけてきた。
「んー……まぁ、ちょっとな」
袖女には民間訓練所に訓練しに行くと伝えているだけで、すキングとの訓練について何も喋ってはいない。袖女からキングと訓練していると情報が流れてしまう可能性があるからだ。
「……最近は何かしたばっかりでしたし、そういう時はしっかり休んでもいいんじゃないですか?」
「……うん。まぁそうかもな」
確かに、最近は自分の訓練に加えて袖女の指導をしたり、黒のクイーンと話したり、今日はチェス隊の1人を殺したし……少し多忙だったかもしれない。
(そろそろ休むターンに入ってもいいかもな……)
久しぶりに早めに寝て、しっかりと睡眠をとってみるか。そう思い、ソファから立ち上がろうとしたその時だった。
「……っ!?!?」
そこには……
「……ほら、どぞ〜」
そこには、膝をポンポンと叩きながら、こちらを見つめる袖女がそこにいた。