部屋に帰って来てみたら
「ふーっ……」
カポーンと、何か桶のようなものが落ちた音がこの場全体に響く。普通に聞くなら騒音にしか聞こえない落下音だが、今この場では別。むしろ逆になかなかに趣のある音だなと、俺は心地よい感覚に包まれる。
視界からは湯気とボディーソープ等の洗剤による泡が視覚情報として摂取することができ、ああ、俺はこの場所に来たんだなと自覚させてくれる。
「ああ……やっぱり銭湯はいい……」
俺は今、銭湯に来ていた。
――――
「んぐ……んぐ……ぷハァー! やっぱりこれだよなー!」
俺は銭湯からあがった後、更衣室の自動販売機に売っているフルーツ牛乳に口をつけていた。
何を隠そう、この俺、田中伸太は海星大河を殺したその体で、銭湯に入店し、体の癒しの限りを尽くしていた。
理由は単純に証拠隠滅のためだ。
殺害後の後始末初心者な俺にとっては、その殺害現場にある証拠品の隠滅だけではまだまだ不安は拭えず、このまま部屋に帰ってしまうと、何らかの形で体に証拠品となるものが残ってしまう可能性があるため、銭湯に入り、体の疲れとともに証拠品も洗い流してしまおうと考え、今に至るわけだ。
(そろそろ海星大河の死体が発見されていてもおかしくないからな……体は洗ったし、もし怪しまれて質問されたとしても、銭湯に入っていたと言うアリバイができてるから問題はない。一石二鳥とはこのことだな!)
銭湯に行くという1つの行動だけで、証拠の隠滅にアリバイ作りまでできてしまった。自分の才能が怖い。
(……いや待てよ? 体の疲れも取れるから一石三鳥か!?)
久々の休息にアホらしいことを考えつつ、頭をタオルでガシガシと拭いた。
――――
数十分後……
「……何やってんの?」
「え……あ、いや……嬉しいかなっ……て……」
帰ってきてみたら袖女が猫耳と尻尾つけてた。
ほんとに何やってんだこいつ。