もう止められない
明日は土曜日ですね! 楽しみぃぃぃぃ!!!!
チェス隊メンバーの1人が殺された。これはまれに見る立派な大犯罪であり、これが世間に公表されれば、神奈川派閥最高戦力であるチェス隊の信用を著しく下げる要因になってしまうことだろう。
(確かにそれもあるけど……新に良くないのは……"時期"……ね)
そう、時期。時期が良くないのだ。
今はプロモーション戦間近で神奈川派閥でも一、ニを争うほどの盛り上がりを見せつつある。そんなタイミングでプロモーション戦の主役であるチェス隊の一角が消えるなんて事件が報道されれば、世間は大混乱待ったなしだろう。
それだけではない。プロモーション戦のために用意した会場や人員。プロモーション戦による好景気で派閥側にガッツリ入るはずだった金も、全てがパァになってしまうのだ。
(プロモーション戦を待ちわびている人々の為にも……このチャンスを使って駒の階級を上げようとしている他のチェス隊メンバーのためにも……プロモーション戦を実行しないわけにはいかないわ……!)
しかし、それだと透明人間である殺人犯に自由に動かれる可能性がある。
「……どうしますか? 神奈川派閥の内部に殺人犯がいるとなると、そいつをあぶり出すためには、プロモーション戦を中止してでも」
「駄目よ!!」
「……っ!!」
プロモーション戦を中断させたくない。その思いが強くなりすぎて、隣にいた警察官の問いに、高圧的に言葉を返してしまった。
「……ごめんなさい。少し取り乱してしまったわ」
神奈川派閥を仕切る存在として、安易に人へ感情をぶつけるのはタブーな行為だ。ここはしっかりと謝っておくべきだと判断し、隣にいる警察官に向かって謝罪の言葉を発する。
「い、いえ。全然……」
「でも、プロモーション戦を中断するわけにはいかないわ。プロモーション戦は絶対に成功させる。そう絶対に」
(プロモーション戦は……プロモーション戦だけは、中断するわけにはいかないのよ!)
「で、ですが、それだと殺人犯を自由に泳がせてしまいます! プロモーション戦を進めるとしても、何かしら対策を立てないと……」
確かにこの警察官の言う通り、チェス隊メンバーを殺害できるレベルの実力を持つ犯人を自由に泳がせると言うのは確かにかなりのリスクだ。
しかも監視カメラの映像を見るに、かなりの短期間で海星大河は殺されてしまっている。
チェス隊メンバーを殺せる実力を持っている上に、短期間でそれをこなすことができる手際の良さ……殺人犯として、これほど優秀な犯人もそうそういないだろう。
それをプロモーション戦を進めつつ、対策するとなると……
「……それは、プロモーション戦が開始されるまでの期間に考えます」
人は万能ではない。それは私とて例外ではなかった。
その場では、殺人犯に対する対策案が思い浮かばなかったのだ。
ただ、だからといって中途半端な案を提示するよりも、正直に今は思いつかないと発言し、後日もっとしっかりとした対抗案を提示した方が良いだろう。
「とにかく、今回の事件はチェス隊にも、もちろん国民全員にもしっかりと秘匿してちょうだい。上層部には私から伝えます……もちろん、誰にも言わないようにね?」