透明人間
犯人を判明させるため、監視カメラに映った録画を閲覧することができる監視ルームに赴いた私だったが、そんな願いは無残にも、完全に真逆の形で裏切られることになってしまった。
「こ、これは……!?」
隣にいる警察官が、誰かに答えを求めるように声を発する。
それも仕方がないことだろう。監視カメラに映っていた映像は、我々の想像を遥かに超えるものだったのだから。
「どうにもこうにも……透明人間がやったとしか……」
監視カメラに映っていたのは、海星大河を殺害し、証拠となる物体が1人でにふわふわと浮き、自分からその姿を粉にしていく光景だった。
「し、しかし黒のクイーン。これは透明人間ではなく、外から遠隔で物体を動かすスキルを持つ者による犯行では……?」
私がつぶやいたその言葉に、警察官は私に対して質問を投げかける。
確かに、殺した後の後始末だけを見れば、その可能性もなくはないだろう。
しかし、そうなると私には1つ、大きな引っかかりがあった。
「……これを逆再生できる?」
「はい。問題ありませんよ」
私は監視ルームの職員に、録画の逆再生をお願いする。すると、画面に映っていた録画はすぐさま逆再生を初め、よくある不思議映像のように、粉になっていたはずの注射器が形を取り戻していく。
逆再生を始めてから数十秒のところで、私は監視ルームの職員に待ったをかけた。
「待って。そこでストップ」
その声を聞いて、監視ルームの職員は録画をとある場面で一時停止する。
「あなた、ついさっき、これは透明人間ではなく、遠隔で物体を動かすスキルじゃないかと言ったわね?」
私の言葉に対し、警察官はコクリと頷く。
「これが……遠隔で物体を動かすスキルだとは思えない証拠よ」
一時停止された画面には、海星大河が目を覚まし、頭だけ横を向けて口をパクリと開けているところが映されていた。
「これは……」
「そしてここを……再生してちょうだい」
そこから通常の再生が行われ、海星大河の体がしばらくの間1点を向いて、口をパクパクと動かしている様子が映し出された。
「な、なんだ……? そんなに口を動かして……まるで……」
「まるで……誰かと話しているかのようねぇ?」
警察官が次に話す言葉を予想し、それを先読みして口に出すと、警察官は画面を見つめたまま、ハッと、何かに気づいたような表情を見せた。
(気づいたようね……)
そう。もし物体が1人でに動いているのなら、まだ物体が動いていない状態でこんな不可解な行動は取らない。
さらに、海星大河の視線は常に一点に向いていて、まるで誰かと話しているかのようだ。海星大河は性格上、こんな無駄な行動を取らない。それは同期である私が1番よく知っている。
(となると……海星にだけは、犯人の姿が見えていたと言うことになる……!!)
その事実に、私は思わず頭を抱えてしまう。
何せ、今現在の神奈川本部には、透明な殺人犯と、黒ジャケットの疑いがある田中伸太。この2人と言う爆弾を抱えているとわかってしまったから。