監視カメラ
首に穴が空いた同期の死体。それには私を半狂乱状態にするほどのものではないが、胸の動悸を早めるには十分だった。
「……はっ……はっ……はっ……」
昔なら、このまま動悸を止めることができず、その場でへたりこんでしまうところだった。
(落ち着きなさい……私は黒のクイーンなのよ)
しかし、今の私は神奈川派閥のトップ、黒のクイーンだ。昔と比べて経験を積んだし、地位も高くなった。
背負うものが増えたのだ。
(だからこそ……それを失った時、私が取り乱してはいけないのよ)
「フゥー……よし」
なんとか正気を取り戻した私は、冷静に海星大河の死体をじっと見つめる。
……見たところ、首の穴以外の損傷はなさそうだ。
「……死因は?」
私は後ろについてきていた警察官に問いかける。
「死因は首の穴からの失血死だと思われます」
(なるほどね……)
首に穴が空いているから、即死だと思ったのだが……
(まぁ、こんな死に方めったにないだろうし……人間は首を切断されても数秒間は生きられるらしいから、首に穴を開けられた後もかろうじて生きていた可能性は少なくはないか)
「凶器は?」
「穴の大きさ的に注射器だと思われます」
「……そう」
(注射器……ねぇ?)
確かに、穴の大きさ的には注射器だと思えなくもないが、もし仮に注射器が凶器だとすると、こんな穴なんてできるだろうか?
(もし注射器が凶器に使われたのなら、普通毒やら何やらの薬を注入すると思うのだけれど……)
とにもかくにも、まずは凶器となった注射器を見てみるほかない。
「それで、その凶器となった注射器はどこに?」
「……おそらくはここかと」
警察官はそう言って、床にある透明な砂のようなものを指差した。
(まさか……)
「……これが、注射器?」
「……はい」
(…………)
なるほど、つまり――――
「犯人は、注射器で首に大きな穴を開けた後、凶器となった注射器を粉状になるまですりつぶした……と言うこと?」
「……はい」
警察官は心なしか少し自信のない表情をとりながら、私の問いかけに返答する。
それも当然だ。注射器という刃物としては物足りない物体で、人の体に穴を開け、あまつさえその注射器を粉になるまで破壊したというわけのわからないことを上司に報告しているのだから。
自分で自分の発言に不安がっても仕方がないだろう。
しかし、黒のクイーンたる私からすれば、犯人にそれが可能なスキルが宿っていたと言うだけのこと。後はそれを決定づける証拠があればいい。
(そういえば……)
「医務室には監視カメラがあったはずよ。今すぐそれを確認させなさい」
私は警察官とともに、すぐさま監視ルームに移動し、監視カメラを確認すると……そこには、とんでもない光景が映っていた。
「……まさか、ね」
監視カメラに映っていたのは、淡々と事件現場の後処理をする透明人間の姿だった。
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