後始末
海星大河に二度とない体験を与えた後、俺は犯人が自分だと特定されないように証拠隠滅を始めた。
まず、しっかりと手に握って投げつけた4個分の注射器の残骸をホウキで一点に集め、反射を宿した足で踏んづけていく。べっとりとついた指紋が拭き取れないように、しっかりと粉になったのを確認すると、その次に注射器を取り出したタンスの棚もそこだけを抜き取り、粉になるまで反射で握りつぶした。
(これだけでもいいが……念には念をしておくか)
俺は凶器となった注射器を取り出すために開けたタンスの棚に一緒に入っていたナイロン製の手袋を2枚手に取り、両手に装着する。
そのままナイロン製の手袋を装着した両手で海星大河の死体に触れ、身に付けている病衣を脱がしていく。男である俺としては女の全裸を見ることにいささか抵抗感があったが、背に腹は変えられない。俺は淡々と服を脱がしていく。
(……おお。役得役得)
そしてついにあらわになった海星大河の全裸。黒のクイーンほど巨乳ではないが、男を満足させるには充分と言える大きさだ。
むっちりとハリがある太もも、キュっと締まったウエスト、へその下にある秘部。どれをとっても始玉のものだ。少なくとも、東一にこれと張り合える肉体美の持ち主は桃鈴才華と語部友隣ぐらいしかいないだろう。
初めて見る女の全裸にゴクリと喉を鳴らし、思わず反応してしまいそうになるが、もたもたして誰かに医務室のドアを開けられては本末転倒だ。来たるプロモーション戦に備え、チェス隊メンバーも全員本部へと集まっている。普通の時の神奈川本部ならまだしも、チェス隊が全員集まっている状態ではさすがの俺でも分が悪い。
今ここで性欲を発散するよりも、誰かに見つかって総攻撃を受けてしまうかもしれないリスクの方が優先度は格段に上だ。
それに俺は死体には興奮しないタイプの人間だ。現に一瞬反応するにはしたが、相手が死体だと認識するとすぐにしぼんでしまった。大丈夫。お前にはいつかチャンスが来る。
そんなこんなで死体から病衣を剥ぎ取ると、それを医務室の角にある洗面台に入れ、持ってきたライターで火を灯していく。
触れてもいないのに、病衣を燃やすのは本当に意味があるのかどうか疑問だが……今まで散々人を殺しておきながら証拠隠滅なんて一切していなかったからな。そのツケが回ってきてしまった。
(……ん? だとしたらなんで東京派閥側にバレていないんだ?)
ふわりと雲のように1つの疑問が浮き出てきたが、今は証拠を隠滅することに集中しよう。
「……よし、燃え切った」
そこから数十秒、病衣が燃え切ったのを確認した後、このまま廊下に出るわけにはいかないため、窓をガラッと開け、外から飛び降りて脱出した。
(ククク……さて、どれくらい慌ててくれるかな?)
俺は空中を移動しつつ、黒のクイーンの慌てる表情が目に浮かび、浮き上がる口角を隠せずにいた。
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