ハローdeath その2
不審者が私を殺そうと手を伸ばした瞬間、私を乗せているベッドを中心にして水の竜巻を発生させた。
私がなぜ時間を稼ぐ行動をとったのか、その理由がこれだ。
私を中心にて水の竜巻を発生させることで、私と不審者との境界線を作り、私の体に不審者の体が触れることを拒否したのだ。
単純に、水質変形『壁』を使うことも考えたが、あれはすぐに使える分、防御力は低い。ただ水を張っているだけだからだ。
その点、竜巻なら、ただ水を張っているだけではなく、それに加えて回転による水圧が加わっている。普通に水質変形『壁』を使うよりも、よっぽど防御力が高いはずだ。
そう考えている内に、私と不審者の間に発生した水のカーテンは、ものすごい勢いで上へとせり上がり、やがて私の視界からは、彼の姿が水のカーテンで埋め尽くされ、見えなくなってしまった。
しかし、それだけでは足りない。それだけでは、自分を守るだけで、いずれは突破されてしまう。竜巻だけで作る時間では、その間にチェス隊の誰かが来てくれる可能性は限りなく低い。可能性を少しでも上げるためには、こちらからも反撃を仕掛けなければならない。
(けど……そのための時間稼ぎだったんだ!!)
「水質変形……『蛭』!」
通常、私のスキル『水形』は、あらゆるものを水によって一瞬で作ることが可能。一瞬ゆえに、思いついてから作るまでの時間に、タイムラグが全く存在しない。
しかし、作るものの体積が大きかったり、細かい動きが必要なものを水で作るとなると、それなりに時間がかかってしまう。
それでも、高層ビルレベルの大きさなら10秒ほど時間をもらえれば作れる……他の作る系統のスキルと比べるべくもない短さだ。
(全く同時に同じものを2つ作る……初めての体験で、思ったより時間が掛かっちゃったけど、あれだけ時間が稼げれば十分だった……)
そして、ここで蛭。ここで攻撃力のなさそうな蛭を選んだ理由は、この水獣を使って行うことが時間稼ぎだからだ。
もし勝つ目的で水獣を生成するのなら、狼や恐竜などの攻撃性能の高い生物にしただろう。
しかし、今回の目的は他の人が医務室に入ってくるまでの時間稼ぎだ。それ故攻撃性能を重視する必要性がなく、相手の血をゆっくりと吸い取りつつ、対象の皮膚に付着して相手の行動を制限する蛭こそ最適だと判断したのだ。
しかもその量と大きさは尋常ではない。その総数、なんと100匹以上。さらに大きさも手のひらサイズで、普通の蛭よりも数百倍はでかい。
これなら勝利できずとも、時間を稼ぐことは可能だ。
(後は待つだけ――――)
……なのに。
(なのに……なんで……)
「口から血が……出てくるのかなあ?」