ハローdeath その1
じゃじゃん!!
「死」その一言だけで、私はなぜ出会ったこともないであろう私がいる医務室を訪問したのか、それを完全に理解した。
「要するに……あなたは私を殺したいってこと?」
「ま、そういうことさ」
(……おそらく、どこかの派閥のスパイか何かか……私が瀕死状態になっているこの機を逃さずにってわけね……)
不審者は私の言葉に、悪びれる様子もなく肯定の言葉を返す。それも当然だ。不審者からすれば、今の私は口だけが動くだるまも同然。圧倒的優位とかそんなレベルじゃない。私がこんな状態になっている中、ここまで接近できた時点で、もはや勝ち確なのだ。
「と言うわけでお前には死んでもらうわけだ。俺も早く帰りたいんでね。手短にちゃっちゃと終わらせてもらう」
不審者はそれだけを言い、私に向かって手を伸ばす。おそらくは手に触れると何かしらの効力をもたらすスキルなのだろう。
しかし、私にとって生に対する執着がないわけではない。むしろ生きたい。
(あまりにも時間が足りない……! どうにかして時間を稼がないと……)
「まっ、まって!!」
少しずつ近づいてくる不審者に、私はまったの言葉をかける。そして私の思惑通り、不審者から近づいてくる手はピタリと止まった。
「……なんだ?」
「……私をなぜ殺すの? 理由を聞きたいの」
「お前に教えたところで俺に意味はない」
「私が知りたいんだよ。私はこれから死ぬんでしょ? 理由も知らないまま死ぬなんて納得がいかない」
私の言葉に、不審者は少し考えるような仕草をとった後、脳内で結論が出たらしく、さっきと変わらない声色で言葉を述べた。
「……いいだろう。教えてやる。俺が東京派閥のスパイだからだ。これでいいか?」
「東京……派閥」
正直、スパイだと言うことはなんとなく察していたが、まさか神奈川派閥の同盟相手である東京派閥のスパイだとは……
(これが本当だとしたら、とんでもない大事件だけど……不審者が嘘をついている可能性がある)
不審者の真意をぜひ手に入れたいところだが、私の目的は不審者から本当のことを聞き出すことではない。何でもいいからどうにかして時間を稼ぐことこそ、私の真の目的。
こうやって時間を稼げば、後からチェス隊の誰かしらが心配して来てくれるかもしれない。
そして、彼が話しているその隙に……
「……話は終わりだ」
「ええ……終わりね」
そう……終わりだ。
「でもそれは……」
「あなたのだけどね!!!!」
その言葉を吐くと、高らかにその言葉を宣言した。
「水質変形『竜巻』!!」
瞬間、私を乗せたベッドを中心に、水の竜巻が発生した。