体に起きている現象
袖女を使った人体実験を行った後、俺が考えた仮説を袖女自身に説明するため、ノートを黒板がわりにして、わかりやすく伝えていた。
「……てなわけで、お前は今、自分の体内にあるオーラ以外の何か……少なくとも外部から何かしらのパワーを受けている可能性がある」
「……な、なるほど……」
俺が伝えた仮説は以下の通りだ。
まず、オーラを溜めている段階で、光を発するほどのエネルギーが拳に充電されることなどあり得なかった。
となると、袖女は何か別の力に目覚めたか、外部からオーラに似たエネルギーを供給してもらっているかの2択になる。
先に答えたように、結果的には、俺はその2つの中から外部からエネルギーを供給してもらっている択を選んだわけだが、理由は主に2つある。
1つは袖女の才能だ。袖女は確かに、チェス隊という神奈川派閥の最高戦力に入れるほどの実力と才能を有してはいるが、かの桃鈴才華のように突飛な才能を持っているわけではない。そもそも、あの桃鈴才華ですら最初から2つのスキルを持ってこの世に生を受けたのだ。2つ目のスキルが後天的に現れるとは考え難い。
唯一、後天性スキルという例外があるにはあるが、試合中の光弾を見る限りでは、威力が高まっているだけで性質的にはオーラと何も変わっていないように見えた。
そう考えると、何か別の力に目覚めた線は薄まる。
2つ目の理由はオーラが枯渇した状態で光弾を発射できる状態まで持っていけたことだ。
さっきの実験で、オーラが枯渇している状態でも光弾を発射できることが確認できた以上、オーラに近しいものがどこかしらから供給されていることは間違いない。そしてそれは袖女からご都合主義のように湧き出てきたオーラでもなく、1つ目の理由から新たな力に目覚めたわけでもない。正真正銘、外部のどこかしらから供給されているのは間違いない。
ここまでの推測から、別の力に目覚めた線は完全にと言っていいレベルで消滅した。
「……で、これらについて何か質問はあるか?」
後天性スキルのことだけは伏せ、あらかたのことを説明し終えると、次に質問について何かないかと言葉を発した。
「うーん……まぁ、別にないですけど……」
「そうか。ならいいんだ」
俺は袖女がこの話を理解することができたとわかると、座り込んでいた体を持ち上げ、部屋の出口へと運ぶ。
「どこに行くんですか?」
突然俺が出口へ移動したため、当然のごとく袖女は俺にどこに行くのか聞いてくる。
「ああ……少し用事にな」
俺はそう言い、廊下へと出るため、ドアノブを捻ってドアを開ける。
(とってもとっても……大事な用事に)